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地域薬局の手で患者デ-タを集め医師の処方に役立てたい(5,3)
水野陸郎:昭和5年東京生まれ、昭和29年、
東京薬科大学卒、元同大講師、同大理事長。
現在東京本郷で、水野調剤薬局経営
インタビュ-、日経メディカル、1980-5
医師が求める“個"の情報をストック
○調剤専門の薬局だそうですが・・。
水野 もう75年も、調剤一本でやっています。
○医薬分業実践の先輩ですね。
水野 場所が東大の龍岡門のわき、という事情もありますが・・。
○地域の細かい患者デ-タを作り、コンピュ-タ-で検査できるシステムを作られたそうですが、どうして薬局にそんな情報が必要なんですか。
水野 お医者さんというのは“個"を非常に重視するんですね。例えば1人の患者を診るのに、成人・男子というとらえ方ではなく、身長、体重、遺伝、職業などの個性を持った患者として把握するわけです。ところが薬学の方は、せいぜい性別、子供・大人の区別ぐらいで非常に大ざっぱなんです。だから、薬害なんかが問題になったりする・・。
米国では医師と密接な連携
○そんなことへの反省から、薬局の役割の見直しが始まった・・。
水野 やはり進んでいるのはアメリカですね。病院のなかにサテライト薬局があり、そこにクリニカル・ファ-マシストという訓練された薬剤師がいるんですね。で、彼らはもちろん薬を出すんですが、その前に検査技師やお医者さんのところによっては患者にインタビュ-して、患者デ-タを作るんです。
○患者についての“個"の情報を集めて薬を出すわけですね。
水野 もちろん薬を出すのはお医者さんなんですが、薬剤師もそれに参加する。さらに、出した薬についての事後のチェックもし、例えば副作用や、薬の効きめについて、お医者さんに連絡したり、アドバイスしたりしているんです。
○日本では、まだ、そんなやり方には抵抗がありそうですね。
水野 アメリカでもまず薬剤師の間から「そんなことまでしなくてもいいじゃないか」という意見があったり、医師からも「ちょっとやりすぎでは」と言われたりしたようです。でも最近は医学教育機関の附属病院や大病院のかなりのところで、このクリニカル・ファ-マシストが活躍しています。また、アメリカでは、そういうことがやられていないと、医療訴訟が起きた場合に、大変不利になるということもありますから・・。
○病院の経営上の必要性からも、さかんになったわけですね。
水野 ところがそういった患者デ-タ作りを病院の薬局だけがやっているのかといえば、そうではなく地域の薬局でもやる必要があるというように変わってきたんですね。そこで、クリニカル・ファ-マシ-ということばも、1970年代には、簡単に「患者志向の薬学」というように定義されるようになったんです。地域の薬局が積極的に患者の安全を守るためには、患者情報を整備することが必要というわけですが、そのために、患者プロフィルと家族プロフィルを作るんです。例えば親が糖尿病だと子にも起きやすいというので、糖尿病を誘発するような薬はその家族に与えない、というようなことを薬局がやる。
別の医師にかかってもチェックできる
○そんなことを薬局でチェックできるといいですね。
水野 それから、つい先だってウチの薬局でもあったことなんですが、高血圧の患者がよその病院に行って鎮痛剤をもらっていたんですが、そのなかに血圧上昇作用を持つ薬があったんです。こんな場合は薬局に、その患者のデ-タがあれば、薬を替えさえすればいいんです。1人のお医者さんにかかっていれば、そのお医者さんがチェックするけれど、病院を変わったり、歯科医にかかったりした場合に、そんなことが起こるんです。
○だから、地域薬局が、患者の薬情報をまとめてチェックする必要がある・・。
水野 そうです。ただ患者さんの数が多くなると、それも無理です。そこで、私のところでは、患者リストのコンピュ-タ-化を考えたんです。ある地域内であったら、そこの住民の患者情報を薬局段階で収集して蓄積、整備できるんじゃないか、というわけです。地域内のお医者さんが、各自に処方を出されても、患者さんが調剤薬局で薬をもらう限り、その窓口で一元的に把握、チェックできますから。
「ありがとう」と言う医師も増えた
○コンピュ-タ-には、どんな情報を入れておられますか。
水野 表のような患者情報をいれておきまして、それを参考にするわけです。もちろん、お医者さんの指示に忠実に、正確に処方するというのが第一義であって、薬局が、指示と違う薬を使うというのではないんです。そうじゃなくて、問題のある薬などについては、お医者さんに「この薬は副作用が問題になってますよ」といった連絡をするわけです。
○医師の反応はどうですか。
水野 ええ、以前は「おれの書いたとおり調剤すればいい」と、すごく怒られたこともあるんですが、この10年ぐらいですっかり変わりました。むしろ「ありがとう」といわれることの方が多くなったんです。そんあこともあって、患者情報を本格的に整備しようと思いまして・・。ただ整備するには、とても人間の能力では限界があるので、コンピュ-タ-を使ったシステムを、と考えたんです。
薬の安全供給の担い手に
○このシステムが完成し、うまく機能するようになると、薬剤師の専門知識を地域医療に活用できることにもなりますね。
水野 ええ、医薬分業を、こういった面から考えることも必要だと思います。つまり、その地域で、薬を安全に供給するための、ひとつの関門のようなものに薬局をする、という考え方です。
○この患者デ-タには、かなり細かい項目まで入っていますね、例えば職業や食物の好みまで・・。
水野 職業特性というのは案外重要なんです。例えば硫酸アトロピンのような薬を板前さんに出すと、仕事中卒倒することがあります。非常に温度の高いところで働いていますから制汗剤を与えると体温が上がっちゃうんです。また脳血栓などに使う抗凝固剤ですと包丁で指を切ったとき血が止まらないんですよ。こんなことも、薬局の患者デ-タでチェックできるわけです。そんなデ-タをできるだけ入れておき、その情報を、お医者さんに連絡するんですが、特にお医者さんに感謝されるのが連用薬の情報です、連用や、量が問題になる薬がありますからね。薬局がこんな機能を果たすようになれば、お医者さんにとっても医薬分業のメリットが出てくると思うんですがね。また患者さんにとっても、わざわざ、不便な分業をするんですから、そんなことでお役に立たなきゃあね。
分業は医師の不利益にならない
○ただ、よかれあしかれ、いまのわが国の制度では、薬は医療機関の重要な収入源になっているのは事実ですから、そう簡単に、薬を全部、薬局に任せるというわけにはいかないでしょう。
水野 それが去年の夏、私のところに処方箋を出しておられる開業医の方が、必要があって調査されたんですが、年間の水揚げ2000万、3000万円のお医者さんの場合、薬を薬価基準の50%ないし、52〜53%で買った場合と、処方箋を出した場合とが、ほとんど同じなんですね。薬を自分で出していると収益が上がっているようで、その実、いろんな経費がかかっていて思ったほどじゃないんです。それが処方箋を出せば、処方料と処方箋料が入ってきますから、見掛けの売り上げ高は減るけど、薬を扱っているのと差はないというです。
○売り上げ高を競うより、実収入の方をみるべきだ、というんですね。
水野 ただ、目に見えない事情もあって、なかなか、薬を手放せないということもありますね。例えば、メ-カ-や問屋との縁が切れるので、現在、プロパ-を通じて入ってきている薬の情報が入らなくなるとか・・。銀行やなんかも、融資の資格として、お医者さんの売り上げ高の方ばかりみる、といったこともありますからね――。
○第2薬局を作る、という方法どうですか。
水野 例えば姪や子供に薬剤師がいて、その人たちに仕事を作ってやるということであればいいと思いますね。ただ、わざわざ薬局をつくったら、1軒や2軒の診療所の処方箋を扱っていたくらいでは、絶対にペイしませんよ。収益という面から考えればバカバカしい話ですね。
今は赤字、電算機のコストダウン期待
○患者デ-タを作ったり、コンピュ-タ-を導入すると、それだけ資金がかかると思いますが、どれくらいの値段ならペイしますか。
水野 現状ではペイしません。ただ、今後の10年間で小型コンピュ-タ-が普及し、価格がぐんと安くなるとみられますから、それが頼みです。アメリカでは、患者デ-タ1人当りのコストが10セント以下というのがひとつの目安とされているようです。別にサイドからみると、年間コストが1万ドル以下、つまり事務員1人分を割れば導入できる。とされています。わが国では、デ-タメインテナンスの費用などもいれて1端末150万から200万円ぐらいで入れられるようになれば普及すると思います。
○地域薬局が、そうやって患者デ-タを整備し、医業分業の体制を整えるには、何軒ぐらいの医療機関と提携すればいいでしょう。
水野 やはり、月間売り上げ300万から500万円が不可欠でしょうね。ですから歯科を含んでもいいんですが、最低3軒の医薬機関から処方箋をだしていただければやっていけるんじゃないでしょうか。地域医療の充実のためにも、医療機関の方たちに、調剤薬局育成に力を貸していただきたいと思います。
(聞き手:松田博市) |
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