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調剤薬局とコンピュ-タ(2,2,9)
「薬学の時間」ラジオ短波;1983-3
はじめに
大企業や研究所だけが使えると考えられていたコンピュ-タを、この頃は街角の酒屋さんの店頭で見掛けたりします。新聞のおおきなスペ-スをワ-ドプロセッサの広告が占めるのも珍しいことではありません。東京の秋葉原をはじめ、全国各地のコンピュ-タショップでは、小学生達がコンピュ-タゲ-ムに熱中しています。
一方、処方せんの発行が著実に増加して、薬剤師の仕事が忙しくなって来たり複雑化した保険請求事務をはじめとして、法的な規制や行政の要求から、「書く仕事」ペ-パ-ワ-クに相当な時間を費さねばならなくなって来ました。そのうえ調剤薬の相互作用をチェックしたり、服薬に関する指導をするためには、これまでの記録では不十分です。今まで薬剤師の持たなかった新しい記録を作り、整理し、保存し、必要に応じてすぐに取り出せるようにしなければならず、薬剤師はますます多くの時間を事務処理に当てねばならないことになります。
プロフェッションとして事務作業に費す時間が増えるのは困った事です。これまで様々の解決策が工夫されましたが、根本的な対策としてはコンピュ-タの利用が望ましいと考えられはじめています。
ところが、コンピュ-タは『薬』と似た性質を持っています。つまり、劇的な効果を発揮して、大変に良い状態に回復することのある反面、時として副作用のため、もっと悪い状態に追い込まれることもあるのです。使う際の用心深さと、慎重さが要求されます。
今日と明日の2回にわたり、調剤薬局で薬剤師がコンピュ-タを使う道しるべを、お話しましょう。
コンピュ-タ利用の問題点
これまで調剤薬局でコンピュ-タが使われなかった理由の第一は価格です。例えば電卓の価格は20年前と比較すると、100分の1以下になってしまいましたし、形も小さくなりました。コンピュ-タも同様で、われわれのような「小ユ-ザ」、調剤薬局の薬剤師も買って使えるようになって来ました。
それでも数100万円もしますし、そのうえ簡単に取り替え、返品がききませんから、慎重に、また真剣に選ぶ必要があります。
第二はコンピュ-タ利用の目的が合理的でないことです。保険請求事務が面倒で、手間もかかることから、コンピュ-タを使って請求事務を行うことが考えられました。しかし、開業医をはじめとして、思った程に普及しませんでした。その理由は期待した程に事務量が減らないことにあるようです。デ-タをコンピュ-タに入力するのに案外の手間を要するうえ、印刷にも時間がかかります。何千枚の請求書を書く程の規模があれば別ですが、むしろ手作業の方が間違いも少なく、効率的な場合が多いのです。
多くの場合に、請求事務だけをコンピュ-タに任せよう、という目的でのコンピュ-タ利用は失敗するようです。
第三の理由はコンピュ-タの能力を余す所なく活用する技術が無かったためです。
コンピュ-タは一度入力したデ-タを記憶する能力を持っています。このため保険請求事務の為に入力したデ-タは、そのまま在庫管理、問屋への発注業務、日計、月計などの集計や、薬品の使用頻度などの統計作成の仕事に使うことができます。
さらに、必要に応じて患者情報を追加することにより、患者薬歴、患者情報の管理や薬品との相互作用のチェックなどが可能となります。これまでは、やりたくても出来なかったことなのです。
手作業では、大変な手間がかかるため実行不可能であったわけです。
つまり、大規模でない調剤薬局の薬剤師がコンピュ-タを使う最大の利点は、デ-タの総合的な利用をめざせることで、このとき始めてコンピュ-タは威力を発揮するといえましょう。
さて、コンピュ-タに仕事をさせるプログラムを集めて、組合せ、体系づけたものをシステムと呼びます。これまで、薬剤師の立場から見て、調剤薬局に適当なシステムが開発されていなかったために、コンピュ-タの本来の能力を生かした利用が進まなかったのだ、と考えられます。
コンピュ-タというもの
薬剤師がコンピュ-タを使うのに、専門過程に知る必要はないでしょうが、ここではパンフレットを読んだり、セ-ルスマンと話し合うための基礎的知識を、説明しましょう。
コンピュ-タは二つの部分から成り立っています。機械部分をハ-ドウェア、それ以外をソフトウェアといいます。近頃、新聞などで「ソフトの保護」などの記事が多いので、耳にされたことがあると思います。ハ-ドウェアは
1. デ-タを処理する部分
2. 入出力を行う装置
3. デ-タを記憶する装置 に分けられます。
コンピュ-タを電子計算機と翻訳しますがこの計算する部分が、第一のデ-タを処理する部分で、CPUとも呼ばれます。第二の入出力装置はコンピュ-タにデ-タを出し入れする、入口と出口です。入口はタイプライタ-と同じキ-ボ-ドやカ-ドなどを使います。出口はCRTタ-ミナルと呼ばれるテレビで文字や図形を表示するほか、プリンタで紙に印刷します。これで「読み書きソロバン」ができ電卓とほぼ同じことが出来ることになります。
第三のデ-タを記憶する装置は『メモリ』ともいいます。ハ-ドウェアの中でメモリは大変に大切な部分でメインメモリと補助メモリに分けられます。
メインメモリは、昔は磁気テ-プが主流でしたが、現在ではフロッピディスク、ハ-ドディスクなどが使われます。フロッピディスクは簡便さが特長ですが、信頼性に多少の問題があるので、記憶容量の不足から、調剤薬局ではハ-ドディスクが主流となるでしょう。このディスクの中にプログラムやデ-タを保存しておきます。
さて、コンピュ-タが本質的に電卓と違うのはソフトウェアです。電卓の場合は「加えろ」、「合計せよ」といった命令は人間がその都度考えてキ-を押しますが、コンピュ-タは違います。あらかじめ一連の命令を覚えさせておいて、必要に応じて人間の介入なしに結果を得るのがコンピュ-タです。ハ-ドウェアにその力がある訳がありません。ソフトウェアがその機能を受持つのです。ソフトウェアが前に述べたハ-ドウェアの三つの部分をうまく組合せて、人の力を借りずに、次々と仕事を進める役割を果しているのです。
例えば、総合的な薬局システムでは、100本以上のプログラムが組合せられてシステムを形作っています。調剤薬局の薬剤師がコンピュ-タを選ぶとき、先ずソフトウェアに焦点を合わせるのが順序です。買手の無知に付け込んでソフトウェアを「オマケ」のように売ることもあるようですが、それに乗せられてはいけません。多分そんなソフトは使いものにならないか、或いはすぐ使えなくなってしまいます。
お金の面から、もう少し掘り下げてみましょう。昔は大企業がコンピュ-タを使ったのでソフトウェアは殆ど特別な注文品でした。例えば薬局システムを貴方が注文して作らせたら、多分5000万円以上の費用を請求されるでしょう。
ハ-ドウェアを500万円としたら、実にソフトウェアはハ-ドの10倍もの費用を要することになります。
これではハ-ドの価格が下っても、われわれはコンピュ-タを使えません。現在は「パッケ-ジ」といって既製品ができており、適切な機能を持つシステムを買うことができるようになりました。「給与計算」とか「売掛計算」などがその例です。
このパッケ-ジは既にいくつかの企業で使われたため、練り上げられて使い勝手の良いものが多いうえ、価格も合理的に設定されるのが普通です。
しかし、極端に内容のよしあしがあるのもまた現実であることを知ることも大切です。
今日のまとめ
「コンピュ-タは何でも自動的にやってくれる便利な機械」であるとの宣伝が行き届いているので、薬局の仕事も簡単に任せられる、問題はそれを買う「お金の工面」だけと安易に考えがちです。
たしかに、コンピュ-タシステムが順調に動き出したら、「本当にすごい」と感じます。でも、必ずしもそうとばかりにうまくゆかないこともあるのです。コンピュ-タの雑誌には、導入に失敗して、「ほこり」をかぶって使えない実例が幾つも挙げられています。
コンピュ-タの利用には、ある程度の知識が必要で、今日は最も基本的な点に触れました。明日は、もっと具体的に、薬局用コンピュ-タシステムにどんな仕事を任せられるか、つまりシステムの役割とか機能の話と、コンピュ-タを実際に選ぶ時の薬剤師、薬局側の用意、調査、などについて具体的な方法をお話したいと思います。
調剤薬局とコンピュ-タ(2)
コンピュ-タの導入での落し穴の一つは、薬剤師に自信がなく、始めは簡単な機械とシステムを買って練習し、次に総合的なシステムの使える機械を買い直そう、と考えることです。
始めから複雑すぎる機械を導入して、使いこなせないのも大問題ですが、機械やシステムを買い換えるのは、大変な労力と共にまた相当の費用を要する事だからです。最初から将来を考えて、賢い選択をする必要があります。こうした観点から、調剤薬局の薬剤師はコンピュ-タに、一体、どんな仕事を受け持たせることができるのか、ということを検討してみましょう。
薬局コンピュ-タシステムの位置づけ
調剤の仕事は、ロボットにやらせることができるものでしょうか。仕事の性質を調べる方法の一つに「流れ図」があります。多少の記号を使って、グラフを書くことにより、仕事の流れを整理して目で見ることができます。
こうした分析から読みとれる、調剤という仕事の特長の第一は、短い、あらすじの決められた手順の作業が沢山あり、それがしばしば繰り返されています。
特長の第二は、その一つ一つの作業の切れ目を継ぎ合わせて、一連の仕事としているのは、「薬剤師の判断」である、ということです。
コンピュ-タは第一の特長の部分を得意としています。繰り返される一定の手順の作業をル-チンワ-クといいますが、このル-チンの面でコンピュ-タは活躍するでしょう。反面、第二の特長の「薬剤師の判断」をコンピュ-タにやらせることは、ちょっと無理です。コンピュ-タはそこまで進んでいません。つまり現在の時点では自動調剤システムを作りロボットに任せるのは不可能ということです。
しかし、薬剤師の判断に必要な資料を用意するのは、むしろコンピュ-タの得意とする所ですから、次の結論となります。
ル-チンと、判断資料の参照をコンピュ-タが受け持ち、「判断」を薬剤師が行うという協力関係が作られるならば、コンピュ-タは調剤する薬剤師の大きな力となる筈です。コンピュ-タは薬剤師の忠実な部下、ということになります。
薬局コンピュ-タシステムの役割と機能 このように考えて、調剤薬局でのコンピュ-タシステムの役割を整理すると、次の三つに分類することができます。
第一は、会計などビジネス面での役割
第二は、調剤の実務と記録の管理での役割
第三は、臨床面で薬剤師を支援する役割
第一の点では、コンピュ-タは昔からビジネスで使われてきたために、元帳の作成や売掛、買掛、在庫の管理などのプログラムは十分に練られて、扱い易くなっています。薬局に適合させるには、多少の修正を加えるだけで済む場合もありましょう。
第二の調剤実務面での役割は、ビジネス利用程に簡単に考えるわけにはいきません。
むしろ、自分の調剤の進め方、内容を整理して標準化する努力が先ず必要です。その後に適切なシステムを導入すれば、基本的な作業、事務を任せられるし、調剤の技術水準を向上させることが可能となります。この面でのシステムの機能の幾つかを挙げてみましょう。
(イ) ラベルの作成、処方せん情報で正確に入力することにより、薬袋、用法紙を誤りなく印刷させることができます。
(ロ)料金計算、(イ)の入力を使って、直ちに一部負担金など、料金計算を行い、即座に結果を出してくれます。適当なプリンタさえ準備すれば、自動的に領収書を発行することもできます。
(ハ)薬歴の検索、慢性病患者の調剤では、その患者の薬歴を検索し、新処方と照合することは、事故を未然に防いで患者の安全を守る意味からも、極めて有益で、必ず行うよう望まれています。
手作業で薬歴を作成し管理するのは、患者数が増えると共に、考えられない程の手間のかかる仕事になります。ところがコンピュ-タは、いとも簡単にこの仕事をやってのけます。さらに、呼び出した前処方と、新処方の内容が同一の時は、新処方の入力を省略して、自動的に転記することすら容易です。薬歴管理を望む薬局にとって、コンピュ-タは欠かせぬ存在といえましょう。
(ニ)調剤録の作成、一日の作業を終えて、調剤録や患者名簿を作成することができます。
こうしてコンピュ-タは、処方せん情報の入力だけで、これらの仕事をてきぱきと片付けてくれます。
第三の臨床面での役割とは、クリニカル・ファマシイを志向する薬剤師に対するコンピュ-タの支援の意味です。この場合、薬剤師はコンピュ-タに、処方せん情報だけでなく、その患者に関する治療上の記録を多少追加することと、臨床薬学に基づいたデ-タを持つシステムを使うことが必要です。薬と薬、疾病と薬などの相互作用モニタリングを行ったり、患者のノンコンプライアンスの状況について、薬剤師に警告を出すことをコンピュ-タがやります。
その他長期に連用すると問題となる薬を使用した調剤で、その薬の使用状況のリストを打ち出すとか、錠剤やカプセルの色や形、識別の為のコ-ドを表示して、誤調剤を防ぐこと、慢性病患者の調剤を包装や色、味などがみだりに変わらぬよう「メモ」を記憶させておくなど、この面でコンピュ-タは将来ともますます重要な役割を果すことになると考えられます。
前にも述べましたが、コンピュ-タは薬剤師を指図するのではなく薬剤師の見落しを警告したり、判断に必要なデ-タを提供して薬剤師を支援する立場にあることを忘れてはなりません。
本当の薬局システムはこれらの役割を果すために十分な機能を持たねばならないのは勿論のこと、使い易さを考慮して作られたものです。
コンピュ-タ導入の準備
薬剤師が忙しいことはコンピュ-タ導入の第一の条件ではありましょうが、総てではありません。むしろ人間の力を借りた方が良い場合もあるでしょう。また設備の改善の方が合理的のことも多い筈です。
調剤薬局に、コンピュ-タを導入するには、それなりの準備をし、検討する必要があります。ここでは意思決定に至る順序を段階を追って説明しましょう。
第一段階は、大体の感じをつかむことです。コンピュ-タや薬局システムについて検討違いの見方をしていないか、そんなに無理なく買える状況にあるのか、など大体の感じをつかむことです。コンピュ-タ導入に、「みえ」や「背伸び」は禁物です。
第二段階は、現状分析です。自分の調剤薬局の現状分析をしてみましょう。処方受付の数、ピ-クの状況、調剤の忙しさ、事務の量と質、医師や患者の請求、例えば待時間などをはじめ、経営上の分析を行って資料を作ります。処方せんの処理枚数など、感じていることと、タイムスタディをした場合で随分と違う結果がでるものです。これが基礎デ-タとなりますから、じっくり時間をかけてやります。
第三段階は、将来の展望です。自分の薬局の2、3年から5年先ぐらいの展望をできる限り努力して創り上げて下さい。
技術的な面でも、米国の例ですが、5年リ-スでコンピュ-タを導入したが3年で使えなくなり、別のシステムに変え、あと2年間は使えないシステムの支払いだけが残った、ということもあるそうです。
第四段階は、システムと機械のメインテナンスの検討です。アフタ-サ-ビスをメインテナンスといい、ハ-ド、ソフト両面のメインテナンスの良いものしか選べません。メインテナンスに不安のあるものは、始めから候補に入れないのが利口です。
第五段階になりました。ここで今まで作った資料を参考にしながら、システムの内容の検討に入ります。扱い易いか、操作し易いか、入力の方法に問題はないか、期待した機能を備えているか、患者数や薬歴保存のためのメモリ容量は十分か、プリンタのスピ-ドに問題はないか、などパンフレットやセ-ルスマンとの話し合いで検討します。
薬剤師仲間の評判や、使用経験者の意見も聞いてみましょう。
一般的な注意を2、3あげてみましょう。
現在の調剤のやり方に固執しすぎないこと、無理に自分のやり方に合わせず、技術的に合理的に判断したら、システムの方に自分を合わせる方が良い場合もあります。「足に合わせた靴を買うのでなく、身体の方を合わせる」という姿勢です。
関連して、薬剤師に対して、良い教育の機会や実習の場所を用意しているシステムは信頼できます。誰でも容易に扱えます、という宣伝だけのシステムは用心しましょう。
コンピュ-タは何時も進歩しているので、買い時が問題です。今が良いか、もう少し先が良いか判断に迷います。昨秋のデ-タショウなどの情報(昭57・11)を見ると、来年あたりが一つの潮時とも考えられます。
十分な準備期間をとることもまた重要です。来年4月頃の導入を目標としたら、今から、準備をはじめて、決して遅くありません。
さて、最終段階はお金との相談です。繰返しますが、決して背伸びしてはいけません。
これだけの段階を経て、コンピュ-タ導入に踏切れば、貴方は必ず成功するでしょう。
最後に申し挙げたいこと一言
コンピュ-タは調剤薬局の薬剤師の忠実な部下です。薬剤師は部下の性質を十分に知り、のみこむための努力をしましょう。 |
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