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処方せんの実務的な処理(2,2,8)
薬局 Vol.34No.9;1983
処方せんの発行が次第に定着して、街の薬局(開局薬局;地域薬局、Community Pharmacy)での調剤が増えて来ている。薬の調剤だけと、狭く調剤を捉えれば、開局薬局も病院・診療所薬局の外来調剤も、大きな違いのある筈はない。しかし、医師へのコンサルテ-ションをはじめとして、患者指導などを含んで広い意味で調剤を定義*1)する場合には、両者の間に相当な差異があり、薬剤師の取り組み方もまた違ったものになる。薬の安全な取り扱いを志向する実務での処理について紹介してみよう。
1. 開局と病院・診療所薬局の相違点
処方せんの発行源が同一組織の中になく、独立の組織として存在するなど、開局薬局は立場、環境が違う。たとえば
1) 処方医は不特定(かつ多数)である。
2) 原則として診療緑を参照できる立場にない。
3) 患者は近隣住民が多い。
4) 在庫薬品は、
a)注射剤は比較的少ない。
b)同一Generic製剤が重複しやすい、
などの特徴がある。
5) 薬剤師数が少ない(単数の場合が多い)。
6) 記録の数と量が多い。
7) 医療保険の調剤報酬の算定方式が違う。
8) 薬局間の競争により、薬剤サ-ビスの適正な水準を、自らが定めねばならない。
などが挙げられ、そのほとんどすべてが薬の安全を考えた場合に本質的な重要性を含んでいる。
・ 複数の薬剤師の眼がないため、思い違い、ついうっかり、といった鑑査ミスが発生しやすい(上記1-5)。
・ 同一Generic製剤の多品目在庫を余儀なくされるための在庫薬品の劣化、有効期限切れが放置されやすい(1-4)。
・ 記録(調剤報酬明細書を含めて)の作成などペ-パ-ワ-クに時間をとられ、本来的な仕事がおろそかになる(1-6)。
・ 患者の待時間に配慮するあまり、鑑査に慎重を欠き、服薬指導を省略する(1-8)。
こうした点を、開局薬剤師は自らはっきりと認識して仕事に取り込む必要があろう。
2. 薬歴と患者情報
薬歴(Drug history)と患者情報(patient porfile)の重要性については、既に多くの人々によって指摘されており、改めてここで述べることもないが、特に開局薬局では処方医が不特定(1-1)であり、診療緑を参照できる立場にない(1-2)ために、その患者について、常に容易に検索できる記録を持つことが必須ともいえよう。
具体的な例を挙げれば、
1) 調剤薬の交付の際に、薬物アレルギ-や副作用発現の確認をするのは、むしろ当然の手順である。その際に、患者記録の有無で大きな差異が生まれる。
a)記録を参照しないで患者に質問した場合には、「この前も無いと答えたじゃないですか」という調子で質問に対して次第になげやりな、いい加減な返事をするようになる。記録のある場合に、薬剤師が「前回は無いとのことでしたが、その後、思い出したこと、変わったことはありませんか?」という尋ね方をすると、患者の態度も違ってくる。
b)患者から、何らかの問題を提起された場合に、記録を持たなくとも、その調剤薬だけについてチェックし対策を立てることができるが、次の機会に対しては、全く無力である。前回問題があったことを思い出して処方せんを検索しようとしても不可能に近い。
2)処方せんの調剤だけでなく、OTCの購入などで、患者(住民、1-3)は薬局を訪れる機会が少なくない。こうした際に、患者の既往症、家族病歴、薬物アレルギ-(たとえば染毛剤でかぶれた。アスピリンがのめない。)などの情報を入手することができる。薬剤師が開き直って面接し、質問する場合よりも、こうした際に薬の安全に関する貴重な資料が収集できるものである。
3)1人の患者が、かけもち受診というのか、内科、皮膚科、耳鼻科、歯科などに、同時に受診していることは珍しくないし、重複した薬物治療を受けていることも考えられる。すべての医師が処方せんを発行して、同一の開局薬局で調剤すれば、薬歴を参照すれば直ちに対策が立てられ問題はない。しかし、患者面接を繰り返し行ない、記録を積み重ねることによって、患者のいいたがらない他科受診による薬物治療の重複が明らかにされることが多い。
こうして、開局薬局の場合に調剤の際に参照できる薬歴や患者情報を持たずに、その場かぎりの質問で済ますのは、気やすめ的であり、薬剤師の責任回避の方便に過ぎないと決め付けられても致し方ないことであろう。
3. 薬歴と患者情報の収集と整理
それでなくても記録の作成に追い回されている開局薬局(1-6)に、これ以上ペ-パ-ワ-クの負担を負わせることは、他の面での技術水準を低下させることに繋がることを覚悟せねばならない。そのために、極力手間のかからぬ方法を工夫せねばならない。
第1図は米国で用いている薬歴・患者情報カ-ドの1例である。これに、複写できる裏のり薬瓶ラベル(第2図)を用いて調剤の都度、貼付けて薬歴としている。
われわれの薬局で、10数年前に同様の方式で実施しようと試みたが、カ-ドの取り出し(検索)、整理に手間がかかり過ぎて数ヵ月で失敗した苦い経験を持っている。
このためAPO-Sを名付けた、コンピュ-タによる調剤システムを開発して数年前より試用している。このシステムは調剤に関する総合システムで、調剤業務・臨床薬学的援助、事務処理など広範な処理を行なうもので、このシステムによって、やっと薬歴・患者情報管理を軌道に乗せることができたのである。以下、このシステムの動きに合わせて説明しよう。
1) 薬歴・患者情報の検索、印刷
調剤カウンタにTV型端末と共にプリンタが設置されており、処方せんを受付けると直ちに氏名(患者番号のわかっている場合にはその番号)を入力する。
再来患者の場合にはコンピュ-タは患者情報と、細心の調剤記録(薬歴)を表示してくる。この段階でも、コンピュ-タと対話しながら、種々のチェックを行なうことができるが、処方せん情報の入力を済ませると、システムは薬袋ラベルと共に、指示票(第3図)の印刷を行なう。指示票とは調剤用チェックリストの意味で、当薬局では処方せんのみで調剤を行なわないことを原則としている。指示票にはそれまでに収集した患者情報が印刷されているので、それと処方せんを照合し、安全を確認した上で調製の作業に入ることとしている。
2) 薬歴・患者情報とのチェック
第3図はプリントアウトされた指示票で、調製する薬剤師は処方せん、薬袋ラベルと共にクリップされた指示票を受け取る。
A.の部分は患者氏名、性別、生年月日、保険種別、電話(勤務先、自宅)、処方医、家族医などの情報が表示される。
B.は処方内容のコピ-と警告が含まれている。
1の左側は薬対薬、右側は薬対患者の相互作用チェックをコンピュ-タが行ない、調剤薬剤師に警告を表示する(第4図)。倍散の量を入力した場合には2に示されるように、その薬品の含有量をmgで表示し、桁違いを看過さないよう注意を喚起している。3はその混合散剤の総重量で、秤取した薬剤師に総量をもう一度たしかめ、秤り直すよう警告も表示する。分割する総個数はそのすぐ左側に表示されているので確認する。
C.は料金計算である。
D.は、あらかじめ、患者面接によって収集した、患者の薬物アレルギ-、既往症、食物嗜好、職業特性、家族歴、メモ(入力のない項目は印刷されない)などである。4は薬物アレルギ-の申告のあった薬剤で、ここでは、ピラゾロン系(11404)薬剤とサルファ剤(621)を表している。この入力があるとB.@で説明した通り、システムはチェックの結果を表示する。既往症に肝障害(LIVER)が入力されてあると、肝機能障害の既往症を持つ患者に、与えられない、または、注意して与えねばならぬ薬品が処方された場合に、警告を表示する。
E.は特に記録を要する薬剤(事前に薬品毎にフラグを立てておく。)が投与された場合の過去6ヵ月の薬歴である。Dは現在を0とし、-1は1ヵ月前を意味する。米国等と違って、数種の製剤の同時投与が多いわが国では、ただ薬歴を表示するよりも、こうした特定の製剤を抽出表示させた方が実際的であると考えている。
処方せんの受付や調剤薬の交付の際に、さらに患者面接(インタビュ-)を行なって得た情報で、特に記録して置きたいものはメモとして入力しておくことにしている(E)。
3) 医師と患者の対応
処方せんを受け付けて、調製に取りかかる前の書記業務と呼ばれる時点と、鑑査と調剤薬交付の際に、できる得る限りの検討を行なうことは、患者の安全を考える上で欠かせぬ作業である。その際に完全とはいえぬまでも、この程度の薬歴・患者情報を用意することによって、薬剤師みずから納得できる程の進歩がもたらされる。患者の待時間の制約もあるので、今後さらに工夫を重ねる必要があると考えている。
一方、こうした作業が軌道に乗ると、処方医と連絡する機会が増えるので、その面での対策も必要である。10年も前は、処方に問題があることを知りながら、あえて「処方通りに作って下さい。」と拘る医師や、電話での応対に「忙しい。」との反応もあったが、現在では処方医の方が慎重である場合が多い。常に薬剤師の「薬の安全な取り扱い」の姿勢を医師に伝える努力があれば、多くの医師は喜んで協力してくれると感じている。
むしろ、本来ならば受益者である患者の方に問題がある。薬剤師の慎重さを理解してもらえず、薬に対する不安感、恐怖心がすぐに現われるのは致し方のないことなのであろうか。この点について薬局内の掲示、薬剤師の態度など考えねばならぬ問題は山積している。
さらに、患者のプライバシ-の尊重について、繰り返し説明したり、掲示をすることが大切と思われる。薬剤師が患者のプライバシ-を重要な事として尊重していることを理解して、はじめて患者は口を開いてくれると考えている。
4. 在庫管理など
その他、開局の薬局で特に留意せねばならぬ点は少なくない。
処方医が不特定で、それぞれの医師が製剤を商標で処方することが多いことから、どうしても在庫品目数の増加を避けるわけにはいかない。結果として死蔵品が多くなり不良薬品や有効期限の切れが発生する。
病院・診療所などの組織では「薬剤委員会」が適切に機能して、技術的、経済的な面から合理的な在庫品目を決定することもできようが、開局薬局ではこうした制限を付けることは難しい。不良薬品の発生を防ぐため、これに代わる方法を案出せねばならない。その幾つかの点に触れてみよう。
1) リスト、インデックスの作成
在庫に関連して、目的に応じて何種類かのリストを作成して使っている。たとえば、
a)総薬品索引;薬局に在庫としてあるすべての薬品のアイウエオ順索引である。項目は薬品名、含量、置き場所である。在庫薬品であるか否かを判断するのに用いるが、特に夜間や、新入局員が何処に収納されているかを調べるのに有用である。
b)Generic順リスト;同一Genericをまとめたリストである(第5図)。薬名、分類コ-ド、薬価基準価格、保険適用の別を項目としている。処方医の質問に答えたり、処方薬品をその中から選んでもらうなどに用いている。
c)在庫調査票;在庫の調査に用いるためのリストで、倉庫、調剤室の棚毎に、その棚に収納してある薬品のリストである。
こうしたリストをうまく使うことにより、同一Generic製剤の管理や欠品の防止を効率的に行なうことができる。
2) 棚卸の励行
1年に1度、決算期に全品目の棚卸を行ない、その間3ヶ月毎に、代謝性薬剤、抗生物質を中心に棚卸を行っている。
薬の変質や、有効期限切れを探すことのできる機会であると共に、案外重複在庫などが発見でき、薬の管理には欠かせぬ作業である。
3) 適正な在庫量の設定
棚卸作業は、その後始末が大切で、その作業の流れは第6図で表される。在庫期間の長い、または有効期限切れに近い在庫薬品はこの作業により抽出され処理される。毎日の仕入、入庫時に単品伝票に貼付けておき、その品目が何時、どこから、どれだけの数量が仕入れられたか明確に知ることができるようにしてある。
おわりに
開局の薬局で、薬を安全に取り扱う上で重要と思われる点をニ、三述べた。これだけでは、周囲を見回すと不十分と感じる事柄が多い。焦点を薬の安全に絞るだけでも、薬局の薬剤師は手に負えぬ程の仕事を負わせられているように感じる。
しかし、処方せんの実務を行なうのに、安全に基づいた対応は不可欠で、もっとも基本的かつ本質的な内容を含んでいると考え、充実させようと心掛けている。
当薬局でコンピュ-タ・システムを使用しているので、システムの動きを追ったが、こうした作業は何もコンピュ-タを利用せねば不可能というものではない。今のところ、コンピュ-タはCTなどに用いられるのと違って補助的な役割を果たしているに過ぎないので、適切な内容と手順を工夫すれば、手作業の方が効率的な場合も多いと思われる。むしろ、システムを組み立てた際の目標であった、「薬の有効と安全を守るための薬剤師の役割をどのように実現するか」についての努力が、多少でも実務に影響を与えていることを御理解頂ければ幸いと考えている。
*1)堀岡正義;調剤を考える、日本薬剤師会雑誌、vol.35,No.1,1983. |
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