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解説 世界一の開局薬剤師
薬局の情報問題と米国での一例(2,2,5)
―――Model 400 Pharmacy System―――
月刊薬事Vol.19.No.2 1977


はじめに
 製剤が多く使われるようになって、薬局での調剤の形が変わり、一調剤当りの所要時間が短かくなったとしても、技術的な見地からすると調剤が簡単かつ容易になったことではない。それまで主流であった調合技術が形を変えて、新しい技術を薬局の薬剤師が持つことを求められてきている。
 それが何であるか?という議論はさておいても、その「何か」の中で大きな比重を占めるものに、薬の安全、患者の安全を守る技術があろう。処方せんを、ただ機械的に誤りなく調剤するだけでなく、それに加えて安全を確保する十分な配慮を技術として創り上げられねばならないことがある。この新しい観点から、薬局の人事面からの改善等、管理技術が注目されねばならないが、さらに、この目的のために情報技術が開発され、薬局薬剤師はそれを習得する必要に迫られている。
 しかしながら、数十名の局員を擁する大組織の薬局は論外として、数名の薬剤師で運営されている薬局では情報問題と取り組むのに、かなりの困難がある。薬剤師が互いに努めて勉強しながら、また助け合いつつ、この分野を堀り下げているのが現状であろうが、「やりたい」とか「やった方が良い」或いは「やらなければならない」と考えても、日常の雑務に追われて、仲々に成果を挙げられないで、停滞しているのではあるまいか。

1. 薬局での情報活動
情報といえばDIといわれる程に、DIについての認識は深く滲透している。DIを薬局業務に取り入れようとした先覚的な人々の努力が次第に実を結びつつある。現在では大規模の薬局(病院薬局)では、かなりの水準のDIが必要に応じて直ちに取り出して使える状態に進んでいるといえよう。しかし、薬局の情報活動は、たしかにDIは主軸であるには違いないが、それ以外にもかなり多面的な情報を取り扱うことが要求されている。比較的小規模の薬局(数人の薬剤師が勤務する薬局)に焦点を絞って問題点を拾ってみたい。
1) DI
 小規模の薬局では、薬剤師にとってDIはかなりの重荷、負担に感じているのではなるまいか?たしかに参照する書籍もかなり容易に手に入るようになってはいるが、
a)それらの情報は、薬局薬剤師の求めているものに限られず、種類がきわめて多いため、Priority(優先度、重要度)を付けるステップを薬剤師自身がやらねばならないこと。
b)情報をそのまま用いるだけでなく、その薬局で新しい情報を附加したり削除しようとすると、そのために相当量の労力が必要となること。等が大きな問題点であろう。このために、薬局で、カ-ド等の作製を試みることになるが(プレインカ-ド、ハンドソ-ト・パンチカ-ドもしくは雑誌等に添付されているカ-ド等)、これ等はたしかにイニシャルコストは廉価には違いないが、継続的な労力、費用が馬鹿にならず、中途半端に終ることが少なくない。薬局を構成する薬剤師数が少なければ、なお一層情報の出し入れが便利な方法が強く望まれる。
 さらに、現実的な立場から例を挙げれば、「1ク-ル7gとして、次のク-ルとの間は少なくとも2週間の間隔を置かねばならない」もしくは「1日1g、7日間使用の後に、さらに継続して投与しようとするときは、肝機能検査を行ない注意して投与すること」を一般的注意としている薬剤の、1日1g、7日分投与を指示した処方せんを受付けた薬剤師は、調剤に際してどれだけの役割を持つものであろうか?
a)処方せんに示された用量が注意を要する量を超えていないこと、さらに基本的には指示する医師が注意を払うべきで、薬剤師は調剤に際してそこまで関与すべきでない、という立場。
b)薬剤師として、長期間の投与に過ぎると感じた時には、医師に注意を喚起することが望ましい、とする立場。
c)こうしたチェックはむしろ薬剤師の業務の一部であり、総ての場合に記録をたしかめる等の積極的な立場
 この3つの立場のうち、病院薬剤師のベッドサイドへの進出をはかる意図の中には、c)の立場を受入れようという考え方がみられるように思える。しかし、薬局の薬剤師数が少ない場合や、地域薬局の場合には、心ならずもa)もしくはb)の立場をとらざるを得ないのが現状ではあるまいか。加えて地域薬局の場合には
a)医師の側に患者記録が必ずしも整えられていない場合がある。大病院では考えられない往診等ではその場で記録することができないため医師を責めることが無理な場合もあること。
b)医師に対して、必ずしも十分な情報が適切に供給されていない。多品種の医薬品が使われ、その少なからぬ品目が消滅し、新たに生れ、条件が変えられている昨今では無理からぬことでもある。「何時の間にか常用量が1 2に変わっている」といった話は決して珍らしくないのである。
c)薬局側でも、患者が必ずしも同一の薬局へ来ないとか、処方せん保存義務はあっても過去を参照することの困難さがある。
 しかし、現在、開業医の多くは、調剤に際しての十分な薬学的サ-ビスを薬局から受けられると期待して処方せんを発行しているともいえるのであって、こうした問題を無視することはできないと思われる。
2) Drug Interaction
 内科医にかかりながら、歯科、皮膚科、眼科等と並行して受診することが多いことから、地域薬局では、1枚の処方せんとしては完璧であっても、重複投与であったり、好ましからざる相互作用を示す場合がある。こうした危険を防ぐ方策として患者別ファイルに処方せんを綴り込む方法などが考えられるが、現在のように、第3者(健康保険等)による支払が一括して行なわれるようになると、調剤費用請求の面からこの方法も現実的でなくなる。処方せん枚数の多い薬局ではむしろ不可能に近いといえよう。調剤薬交付に際して患者との会話を通じて、こうした危険を防ぐのが精一杯の努力であろうか。
3) 患者情報、家族情報
 DIや、相互作用の情報は、薬局では、患者の個人的な情報と密接に関連して、切りはなすことができない。薬局の業務が、Drug orientedからPatient orientedに変わりつつある、といわれるように、むしろ患者に関する情報の一部分としてDIを考えるのは、極端ではあろうが1つの見方でもある。
 もちろん、患者情報として第1に挙げられるのは、
a)性別、年齢、既往病歴、被保険者番号等
b)アレルギ-、特異性
等であろうが、
c)薬の服用状況 も忘れてはならない点である。調剤薬の服用率に関して近年かなり活発な調査がなされているが、家庭によって、薬の取り扱い方に違いがある。風邪薬のつもりで父親の降圧剤を小児に服用させたりという非常識な家庭がある一方では、極めて忠実に規則的に指示を守ることを習慣としている家庭もある。地域薬局の薬剤師はこうした情報について、丹念に集め整理しておくことが望ましいが、記憶のみにたよることは不可能なことであろう。
d)Placebo的投与 薬効評価の意味でなく、患者の薬剤に対する心理的依存性の治療を目標とした場合が多いが、うっかりしたことを患者に喋ってしまうと、医師との長期間にわたる共同作業が一瞬にしてふき飛んでしまうこともあり得る。こうした情報は、薬局内の数人の薬剤師の間で確実な連絡と打ち合せを行なうことが望ましい。
4) 在庫管理
 医薬品の経時変化を考慮すると、在庫が多いことは、一概に良いとはいえない。緊急に用いられる医薬品をはじめ、在庫切れは薬局にとっても患者にとっても、相当な迷惑である。同一ジェネリックの品目の製剤が重複して、有効期限切れを起こさないとも限らない。不良品廃棄を生まないためにも、的確な在庫管理が必要である。
 このために、全品目に伝票を貼付する等の方法を講ずることとなるが、これまた大変な労力を必要とする。在庫情報の的確な把握は、かなりの難作業といえよう。
5) 第3者による支払
 この問題は、患者情報としても被保険者の記号番号等の誤りから、正常な請求ができなくなる場合と、処方せんを転記する作業、請求明細書作成、集計事務の繁雑さと、膨大なル-チン作業を回避する点とに分けられよう。
 薬局の実務からすると、総員15程度の人員を常にこの作業のために配置することは、如何にも無駄なことに思える。誤りを防ぎ、ル-チン作業を減らすことが大きな問題点である。
6) 経営情報
 健康保険等による第3者の調剤費用の支払が多くなり(むしろ殆ど全部といっても過言でない程に)、薬局の資金の回転が悪くなっている。在庫期間を2ヶ月としても、調剤後にその報酬を受け取るまでの2ヶ月、計4ヶ月を考えねばならない。在庫量に変動があったり、毎月の作業量に増減のある場合には、資金繰に神経を使いその予測を立てねばならない。在庫量、調剤報酬請求総額等からの経営情報を欠いたならば、正常な経営をなし得ないのが現在の薬局の実態だろう。
 調剤を扱う地域薬局として、これ等の問題点についての解決を模索していたのであるが、情報に関する事柄は、一見簡単に見えるが、いざ実際に取り組んでみると奥が深くて泥沼の様相を示すのが普通である。
 一層のこと分不相応でもコンピュ-タ(電子計算機)の利用をと検討したこともあったが、ここに挙げた業務を、それなりに処理するにはレンタルで100万円(/月)を超えるグレ-ドのもの、つまり買取価格で約5,000万円程もするとなると、われわれの手の届く範囲でないことは明らかである。
 コンピュ-タの使用が現実的でないとして、それに代る他の方法を考えているうちに、いたずらに年月が過ぎてしまったのである。

2. 最近の半導体技術の進歩とコンピュ-タへの影響
 ところが、この数年コンピュ-タに大きな変革が生れている。
 1940年代の終りに発見発明されたトランジスタは、電子機器に革命的変化をもたらしたことは周知のことであるが、さらに60年代に入り、米国の宇宙、軍事工学での、電子回路の信頼性と小型化への強い要求から、それまでの単機能部品を回路板上に組み立てる方式を捨てて、数ミリ四方の半導体板上に微少な数百個の回路素子を作り、それ等自体を有機的に接続して回路を構成するというIntegrated Circuit(IC集積回路)が産み出された。
 こうした技術なしには、人類は、月面に着陸することもあり得なかったに違いないが、さらに、60年の中頃にはICの集積度をさらに向上させる、Large Scale IC(LSI;大規模集積回路)の考え方が進み、関連した技術の進歩と共に実用化されるに至ったのである。この成果はわれわれの目でも、電卓と呼ばれる卓上形小形計算機が年と共に小型、軽量となり、消費電力の減少と価格の急速な低下という劇的な変化で確めることができる。
 このLSI技術によって電子計算機の制御演算部を創り出そうという試みが実を結んで、70年代のはじめに、最初の製品が売り出された。その後数年間、改良が加えられ、1個のLSI(1チップ)で従来のミニコンと同程度の性能を持つといわれるプロセッサ-(制御演算装置)が出現しはじめている。小さな1個の部品にまとめられていることから、Microprocessorと呼ばれるのがこれである。
 一方この進歩は電子計算機の機械部分(ハ-ドウェア)の価格のうち、相当な比重をしめる記憶装置にも大きな変革をもたらした。それまで主記憶装置(内部の)として使われていたコアメモリ(Core Memory)に代って、半導体メモリが進歩して使われるようになったのである。現在ではわずか数ミリ四方の半導体結晶上に、数万個のトランジスタが装置される程に集積度が向上しているうえ、急激に価格が下っている。
 この半導体技術の進歩によって、高嶺の花と、一度はあきらめたコンピュ-タを、われわれ薬局に置き、情報処理の道具として使うことができることになるのではないか?との期待が生れても不自然ではないだろう。

3. Model 400 Pharmacy System
 今年の夏、TI社の関係者と会った折に、米国では既に、数人の薬剤師の勤務する薬局向けに薬剤業務を処理する装置を売り出したと聞いた。
 説明書によると、この装置は、まさに前記のLSI技術によって作られた小型コンピュ-タと入出力装置を薬局に置き、しかるべき大型のホストコンピュ-タと通信線で結び、薬局の業務処理を行なおうというもので、量産されればその価格はソフト(プログラムの費用等)を含んで5,000ドル程度(1,250千円。これには電話回線やホストコンピュ-タの使用料は含まれていないが)といえる。それならばわれわれでも設備でき得る価格に納められていると考えられ、検討する勇気が出て来た。
 以下、この装置について概要を紹介しよう。
a)特長Pharmacy Systemという名称に見られるように、この装置は、決して汎用のコンピュ-タではない。特定の目的に合致するように作られている。この点わが国のコンピュ-タに対する考え方とはかなり違っており特別な機能しか持っていないのである。
 この装置は、
1) 処方せんサ-ビス
2) 患者およびその家族情報の管理
3) 薬剤相互作用のチェック
4) DI機能
5) 第3者に対する請求書の作成
を行なうことを目的としている。
 特長の第2点は、これらの作業を関連して行なうこととしている点である。わが国でコンピュ-タを導入する場合には、例えば人事、販売、生産、などを個別に処理すること、つまり薬局でいえばDIはDIのみ、料金計算はそれだけで独立して処理するという方式をとることが多かったのであるが、この装置では、処方せんの内容を入力する場合に、そのデ-タが、他の機能と互いに関連する場合には、共通のものとして取り扱われる所に、これまでの小型装置とは違った使い易さがあると思われる。このやり方は、デ-タベ-スシステムと呼ばれ、デ-タを重複して入力せず、一度の入力のみで済む点、特に小人数の薬局業務では威力を発揮するに違いない。
b)装置の概要 薬局に置かれる装置は990/4という小型コンピュ-タ本体とModel911ビデオ表示キ-ボ-ド装置およびModel810プリンタのみである。通信線(電話)でホストコンピュ-タとデ-タベ-スに接続されて実際に動作することとなる。基本的プログラム(スタ-タ・パッケ-ジ;ASP)は990 4のメモリ-部に組み込まれて居り、薬局内の装置はこれによって動作をはじめる。
c)動作の概要 機能の説明は省略して、実際の処方せん受付をした薬剤師の操作を追ってみよう。
I 処方の指示が医師(電話等)もしくは患者から示された場合に、患者識別番号が確認できる時はPPI(患者情報参照機能キィ)によって、ビデオ上に患者歴を呼び出す。この操作は番号をタイプして、PPIという機能ボタンを押せば良い。
新処方受付の場合でも、再調剤の場合でも、この患者歴(プロフィル)は薬剤師にとって、薬剤相互作用をチェックするために用いられる。表示には、患者氏名、性別、電話番号、住所、保険番号、アレルギ-、特異性に加えて、その患者の過去の処方一覧が現れる。
再調剤の場合には、その処方のうち一つにカ-ソル(指示のアンダ-ライン)を合わせ、内容等に誤りが無ければ、RRX(再調剤指示キィ)を押すと表示は「ラベル表示」に変る。薬剤師が誤りを見付けない場合には、さらにPRINTキィを押すと、調剤薬に貼付するラベルが、その表示通りにプリンタから印刷されて出力されることとなる。
新処方せんの場合には、RRXにかえてNRX(新処方受付機能キィ)を押す、これによって、新処方を表示するスペ-スがあけられる。処方内容をタイプすると、その処方内容はホストコンピュ-タへ送られて、一連番号を附けられ、この内容に誤りが無いかをチェックし、もし誤りのある場合にはエラ-メッセ-ジを薬剤師に送る。
総ての訂正が終った後に、薬剤師は再調剤の場合と同じようにPRINTキィを押すことによってプリンタから印刷したラベルが出力される。
II 新患者の場合で家族がリストされている時、または患者、家族情報の訂正をする場合にはUFR(家族情報更新キィ)を押す。これによって、家族情報の変更、人員変更、新家族員の選択をし、それぞれに入力するとデ-タは変更される。新家族増加の場合は、識別番号がホストコンピュ-タから送りかえされてくる。
III 患者の識別番号が不詳の場合、SRCH(検索キィ)によって患者を探し出す。苗字を入力すると、その苗字を持つ患者の一覧がビデオ上に表示されるのでその中から該当者を選び出すこととなる。
IV 患者もその家族も全く新しい場合にはNFR(新家族登録キィ)によって新患者として登録し、そのうえでNRX(新処方受付機能)によって調剤業務に入ることとなる。
調剤はこうして行なわれるが、ホストコンピュ-タはラベルと同時に調剤薬価をプリントアウトする。
d)その他の機能、この装置は、さらに、
I 自動在庫および発注機能を持って居り、あらかじめ設定した在庫数量より調剤した総量が大きくなった時点でその品目をプリントアウトする。薬剤師はその品目を発注すればよい。
II DI機能 あらかじめNDC(全国薬効分類)等適切な識別番号を附して一般名、製品名、最新の情報、適用の形式、施用方法、行政的管理区分、等をホストコンピュ-タへ入力しておき、必要に応じた照会指令によって出力される。
III 第3者支払に対する機能 米国ではわが国と異なって、社会保険制度が発達していないが、それに代る各種の保険業務を行なう企業等がある。このため薬局からの請求はそれぞれの請求、支払の方法に適合しなければならず、薬剤師はこうした情報をデ-タベ-スに蓄積することになる。わが国の場合の保険請求の変形と考えれば良いであろう。
IV患者支払一覧 米国では納税はすべて申告制であるため、所得税控除の目的で用いる1年間の調剤薬支払記録についての要求が強い。このため、この装置では支払記録の一覧をプリントできる機能を備えている。
V 秘密保持 薬局の業務、経営記録が誰でも取り出せることは好ましくないので、コ-ド番号によってデ-タのロックが解除される機能を持っている。
むすび
薬局で当面している情報問題と、同じ種類の悩みを持つであろう米国の薬局へ向けて作られた、Model 400 Systemについての概要を紹介した。この装置が、そのままわが国で使えるとは思わないが、薬局業務の勘所を押えて、手際良くまとめたものである。Patient orientedの方向が今後ますます明確になるに従って、地域薬局のみならず、小規模の病院薬局でもこうした装置がそれなりに考えられる時期は、案外早く来るのではないかと感じている。
最後に資料を提供されたTIアジア社にお礼を申し上げる。

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