株式会社じほう
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| 薬剤師: | いらっしゃいませ |
| 患 者: | わき腹が痛むので、痛み止めの湿布か塗り薬がほしいのですが |
| 薬剤師: | どのような感じの痛みでしょう? |
| 患 者: | 痛がゆいような、ピリピリしたような痛みなのですが |
| 薬剤師: | 痛む部分は、皮膚の表面ですか?それとも筋肉の部分でしょうか? |
| 患 者: | よくわからないけど、両方に痛みがある感じがします。 |
| 薬剤師: | いつごろから痛みを感じたのですか? |
| 患 者: | 一昨日ぐらいからです、はじめはそれほど痛くなかったのですが。 |
| 薬剤師: | 痛みの原因でなにか思い当たることはありますか? 例えば、咳をしたとか、ぶつけたとか、何かにかぶれたとか? |
| 患 者: | 何も思い当たりません。強いていえば、ここのところ疲れを感じていますが。 |
| 薬剤師: | わき腹の部分に、皮膚の赤みや水ぶくれのブツブツはありますか? |
| 患 者: | いえ、見た目や触った感じはまったくいつもと変わりありません。 |
| 薬剤師: | 服が触れたり動いたりしなくても痛みますか? |
| 患 者: | 何もしていなくても痛みます。仕事の時に気になるから何とかしたいのですが。 |
| 薬剤師: | そうですか、今の段階では痛みの原因もはっきりしませんので、とりあえず痛みをやわらげる効果のある炎症止めの○○で様子をみるのがよいと思います。 |
| 患 者: | はい、それを使ってみます。 |
| 薬剤師: | これから1週間ぐらいの間は、痛みの感じるところをよく観察するようにしてください。お伺いしたような痛みは、帯状疱疹という病気の前ぶれとして起きることもあります。痛みのある周辺が赤くなってきた時や小さな水疱がでた場合には、○○を使うのを止めてすぐに医師の診察を受けて下さい。帯状疱疹の場合には、よく効く処方薬が開発されていますが、いち早く医師の指示で治療を始めることがとても大切です。 |
| 患 者: | わかりました。薬を塗るたびに注意して見ることにします。症状が出たら皮膚科にかかればよいのでしょうか? |
| 薬剤師: | そうですね。皮膚科の医師に診ていただくのが一番よいと思います。お大事に。 |
この事例では、薬剤師が医薬品の選択と受診勧告というケアプランを顧客に提供しています。薬剤師の思考プロセスをSOAP形式で整理(表2)してみましょう。
地域薬局におけるプライマリー・ヘルスケアでは、薬剤師の思考プロセスを記録(文書化)する機会は多くありませんので、記録を中心に考えるとますますイメージが遠くなってしまうかもしれません。そこでSOAPを、思考プロセスの「ナビゲーター」と考えてみてはどうでしょう。うまくイメージすることができれば、ベテラン薬剤師の合理的な思考プロセスと同じ経路を効率的にみつけることができると思います。
ケアプランがうまく行かない時に
経験が浅い薬剤師の場合、最善のケアプランをコンスタントに提供することは簡単なことではありません。提供したケアプランの質に不安や不足を感じることもあると思います。このような場合、SOAPの思考プロセスを逆方向(問題→P→A→S、O)にして利用してみてはどうでしょう。顧客の問題を解決するプランを提供できたのだろうか? →提供したプランはどのようなアセスメントに基づいているものか? アセスメントはどのような情報を根拠に行われたか? と自分の思考プロセスを遡って確認をしてみることで、情報量、薬物治療上の知識、評価能力、コミュニケーションスキルなどのうち、何が不足していたかを自己分析することができると思います。また、このような見直しをくり返すことにより、SOAP的な思考プロセスを「On the job training」で身につけることもできると思います。
能動的に問題をみつけよう
地域薬局におけるプライマリー・ヘルスケアでは、薬剤師が顧客のQOLに関与する唯一のプロフェッションです。薬剤師が最善のケアプランを提供するには、顧客のQOL向上を業務の目標とする意識がとても重要なポイントとなります。
前述の事例では、顧客が薬剤師に対して症状の相談を持ちかけることからコミュニケーションが展開し、QOLの観点から解決するべき問題が浮かび上がってきました。しかし、顧客が「TVで宣伝をしている痛み止めの○○をください」と希望した場合や、陳列棚から買い物カゴに○○を入れて会計にきた場合はどうなるのでしょう。「おだいじに」といってレジを打つだけでは、たとえ薬剤師が薬物治療の知識が豊富でSOAPの達人であったとしても、解決するべき問題を見出すことすらできません。
一般用医薬品は消費者が自己判断で手軽にセルフメディケーションに利用できるという特徴を持っています。しかし、供給する側まで「手軽なもの」と勘違いをして、薬の販売が最大の関心事になってしまったら、薬剤師がプライマリー・ヘルスケアに関与する意味がなくなってしまいます。
それでは、「○○をください」という顧客からどのようにして問題を能動的に見出せばよいのでしょう。顧客のQOLを目標にしていれば、なにも難しいことはありません。いつものように、心配そうな顔つきで「どうなさいました?」と一言かけることをきっかけに、コミュニケーションが始まります。
3年生薬剤師の考察
筆者(犬伏)は入局3年目の薬剤師です。当薬局では調剤業務に専念していますが、実家が地域薬局を経営していることから、SOAPの概念をプライマリー・ヘルスケアに取り入れたいと考えてきました。
新人薬剤師のころを振り返ると、方法論を習得することに目が向いて、何のために使うかというイメージがはっきりしていませんでした。SOAPを利用することにより、今までできなかった薬剤師サービスが、魔法のようにうまくできるのではという過大な期待をしていたような気がします。
しかし、実際に一般薬の販売などで試してみると、思ったほどの成果はなかなか得られません。例えば、顧客から風邪の症状をインタビューして薬を選択するという業務のプロセスは、表3のように整理することはできるのですが、SOAPを取り入れる前と結果が大きく変わることはありませんでした。今になって考えてみれば「痰と咳には○○」といったTVのセールストーク的な思考プロセスを、単にSOAP形式に置き換えたものでしたから、結果がかわらないのも当然のことだといえます。
このような失敗の経験から、SOAPを「顧客のQOL向上という目標」を達成するための道具として考えることができるようになりました。また、薬剤師サービスの土台となる知識や情報があってこそ、論理的思考プロセスが活きることも学ぶことができました。3年目の薬剤師にとって、業務の目標、薬学的な土台、論理的な方法論の三拍子を揃えることはとても難しいことですが、顧客からプライマリー・ヘルスケアのプロフェッションと評価されるよう、山のような課題に取り組んでいきたいと考えています。
連載を終わるにあたり
半年の間、貴重な誌面をお借りして、地域薬局の業務におけるSOAPの活用法について整理させていただきました。
若手の薬剤師を中心に執筆を担当させていただきましたので、ベテランの先生方には物足りなさを感じられたことと思います。SOAPを身近なものとして感じていただくことを目標として執筆を心がけましたが、あらためて読み返してみると、力不足からその真意を十分にお伝えできなかったのではないかと反省をしております。
内輪の話ですが、本連載を担当した執筆者は、全員が自分の考えを発表するのが初体験という、内心ハラハラドキドキの試みでした。そのおかげで、執筆中は喧喧諤諤の話し合いが生まれ、書き手にとって地域薬局の役割やSOAPの本質を理解するたいへんよい機会となりました。
本連載が、読者の皆様の日常業務に何らかのヒントを与えることができたなら、筆者一同望外の幸せです。