株式会社 じほう
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| X薬剤師: | 水野薬局の薬剤師Xといいます。Aさんの処方について確認させていただきたいことがあるのですが。 |
| C医師 : | なんでしょう? |
| X薬剤師: | メトクロプラミドを処方いただいていますが、添付文書には錐体外路症状の報告があります。このまま調剤してよろしいのでしょうか。 |
| C医師 : | Aさんは吐き気がひどくて食事ができない状態です。パーキンソンの薬も減量できる状態ではないので、そのまま調剤をしてください。メトクロプラミドの影響については次の診察で確認しましょう。 |
| X薬剤師: | ありがとうございました。 |
3. Y薬剤師の疑義照会事例
問題を見出したY薬剤師は、情報収集のためにAさんにインタビューします。
| Y薬剤師: | こんにちは、薬剤師のYです。今日は、おなかの調子を整える薬が処方されていますがどうされました? |
| Aさん : | 3、4日前から吐き気がひどくて、ほとんど食事ができなくなりました。先生は、薬を増やしたことが原因かもといっていました。パーキンソンの薬は減らせないので、食事ができるように吐き気止めを出すっていっていましたが? |
| Y薬剤師: | そうですか、食事ができないのでは困りますね。今までに吐き気止めをおのみになった経験はありますか? |
| Aさん : | いや、はじめてですよ。 |
| Y薬剤師: | わかりました。念のため吐き気止めについてC先生に確認したいことがありますので少しお時間をいただけますか? |
Y薬剤師は、ここでC医師に連絡をします
| Y薬剤師: | 水野薬局の薬剤師Yといいます。Aさんの処方について確認させていただきたいことがあるのですが。 |
| C医師 : | なんでしょう? |
| Y薬剤師: | 吐き気止めとしてメトクロプラミドを処方していただいておりますが、錐体外路症状を起こしやすいとの報告があります。類似薬効を持つドンペリドンですと、メトクロプラミドと比較して脳への移行性やD2レセプター親和性が少なく、薬剤性のパーキンソニズムを起こしにくいというデータがありますが。 |
| C医師 : | ドンペリドンも使ったことがありますが、そんなにちがうのですか? |
| Y薬剤師: | 添付文書上の記載事項はほとんど変わりませんが、手元の資料では薬剤性のパーキンソニズムのリスクにはかなりの差があるようです。よろしければ資料をファクシミリでお送りしますが。 |
| C医師 : | ええ、資料はFAXしてください。Aさんの処方については、ドンペリドンに処方を変更してください。1日量はどのぐらいでしょう? |
| Y薬剤師: | 一般的には1日15mg〜30mgが常用量です。パーキンソンの患者さんには少量からはじめることが望ましいと思うのですが、Aさんの場合、吐き気が相当ひどいようですね。 |
| C医師 : | それでは、1日10mgを屯用にしましょう。1日2回を上限として、吐き気がないときは飲まないように指導してください。10日後に診察をしますので、20回分差し上げてください。 |
| Y薬剤師: | 了解いたしました。ドンペリドン10mgを屯用20回分で調剤させていただきます。どうもありがとうございました。 |
SOAPに記録すると
問題を見出してから、疑義照会に至るまでの薬剤師の思考プロセスをSOAPでまとめてみましょう。表1がX薬剤師、表2がY薬剤師です。
1. 両事例の比較
同一の事例に対し、X、Y薬剤師の疑義照会は異なるものとなりました。このような差が生じた原因は、主にProblemの設定と情報量の差によって起こるものと考えられます。両者にどのような違いがあるのか整理をしてみたいと思います。
2. Problemの設定
両薬剤師は、パーキンソン病患者へのメトクロプラミド投与は症状悪化のリスクがあるという問題に気づいています。
X薬剤師は、疾患と医薬品情報の間に予測されるリスクを、直接的にProblemとして設定しています。調剤上の疑義を見出したことは立派ですが、AさんのQOLという視点が欠けています。おそらく、患者がAさんでなくても同じProblemが設定されるでしょう。
Y薬剤師の場合、疾患と医薬品情報の間に予測されるリスクを、Aさん個人の問題として捉えることにより、QOL向上という目標を踏まえたProblemを設定しています。
3. 情報量の差
(1) SubjectiveX薬剤師の場合、Problemの設定にAさん個人に関するファクターが欠けていますので、患者インタビューを必要としていません。Subjectiveに該当する情報は空欄のままで、評価に利用することはできません。
Y薬剤師の場合、インタビューでAさんの吐き気の状態をSubjectiveとして得たことにより、QOLの向上には吐き気の改善が必要であるというAssessmentに結びついています。
(2) Objective
X薬剤師は、メトクロプラミドの添付文書情報から得られる医薬品情報を唯一のObjectiveとして利用しています。添付文書の重要な基本的注意には「錐体外路症状の副作用があらわれることがあるので有効性と安全性を十分配慮」としかありませんので、X薬剤師が医師に対する情報提供も、医師に判断を委ねた単なる確認作業になっています。
Y薬剤師は、添付文書の他に薬剤性パーキンソニズムにフォーカスした評価情報(または事前に持っていた知識)をObjectiveとして利用しています。添付文書は製品情報であり、薬物治療の評価に利用することには限界があることも理解していたのでしょう。ドンペリドンの添付文書にはメトクロプラミドとまったく同じ注意事項が記載されています。もし、Y薬剤師が添付文書しか利用していなかったら、より安全な薬剤を推薦することはできなかったでしょう。
おわりに
SOAPは、情報という根拠に基づいて効率的に結果を導き出す思考プロセスですので、疑義照会における薬物治療のレベルやコミュニケーションの効率を上げることに役立ってくれます。しかし、SOAPはあくまで薬剤師の道具であり魔法の箱ではありません。疑義照会で望ましい結果を引き出すには、薬剤師の目的意識や薬学的な能力などの材料が必要です。ただし、SOAPは優秀な薬剤師しか使えない道具かといえばそうではありません。経験の少ない薬剤師にこそ、積極的に利用していただきたいのです。日常の業務で、論理的な思考プロセスを繰り返すことにより、On the job trainingで薬剤師としての感性や能力を磨くことができると思います。