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株式会社 じほう
調剤と情報
別刷
平成14年8月
Vol.8 No.8
P91〜P97

SOAP的情報整理術―(5)
疑義照会業務とSOAP的情報整理

水野薬局 篠原 真知子
同    安部 好弘

はじめに

薬物治療の目標は、患者のQOL向上(疾病の治癒、症状の軽減、予防など)というゴールを達成することにあります。疑義照会は、その過程で障害となる薬物治療上の問題を薬剤師が見出して、医師や患者と協力して解決する作業と考えることができます。

地域薬局において薬剤師が問い合わせる「疑義」の内容はさまざまです。日常業務で経験する疑義を整理すると、処方せんの記載不備などの事務的な性質のものと、薬物治療の内容に関わる臨床的なものに大別することができます。

事務的な問い合わせは、一定の調剤経験を持っている薬剤師であれば、適切な処理をすることができるでしょう。一方、薬物治療の内容に踏み込んだ疑義照会になると、単に問い合わせになれているだけでは望ましい結果を得ることができません。見出した問題に対して、論理的に解決する方法論やコミュニケーションスキルといった準備が必要となります。

疑義照会とSOAP

地域薬局の疑義照会は、ほとんどが電話を利用して行われます。前回(本誌2002年7月号)でも述べたように、電話は言葉によるコミュニケーションに限定されますので、情報伝達の質と効率を保つことは容易なことではありません。また、限られた時間のなかで必要な情報のやり取りを行わなければなりませんので、薬剤師が情報をうまく整理して伝えることが求められます。

SOAPは、もともと複数の医師がカルテを共有できるように情報を整理するシステムですから、薬剤師が医師に情報を伝え協議をする際にも、うまく活用することが可能です。ここでSOAP形式と疑義照会の流れの関係を簡単に整理してみましょう。

1. Problem:SOAPの表題

疑義照会における「Problem」は、医師への照会が必要な疑義内容と位置づけることができます。

まず、何を疑義として照会するか、SOAPの表題(SOAPシートには「#」で記します)として明確化することが重要なポイントです。解決すべき問題が曖昧では、医師に照会内容を理解してもらうことができませんし、どんなに論理的な手法を利用しても議論が空回りして望ましいゴールに達することはできません。

表題は、薬剤師が「QOL向上」という目的意識をもって、薬学や臨床的な切り口から設定をすることが求められます。表題が適切に設定できないと、問題を解決しても患者の利益にはつながらない、という結果になってしまいます。

2. Subjective:主観的情報

服薬指導(患者インタビューやモニタリング業務)で得られる、患者の要望、自覚症状、疑問や質問、コンプライアンス状況などの情報が主観的情報に該当します。地域薬局では、薬剤師の視点で収集した独自の患者情報を元に、薬物治療上の問題が見出されることが少なくありません。また、QOL向上という志向で問題を解決する上で、主観的な情報は重要な役割を果たします。

3. Objective:客観的情報

客観的情報は、処方内容、薬歴、患者インタビュー内容などの患者個人に関する情報と、薬剤師が知識として有する薬物治療や医薬品に関する情報に分けることができます。

これらは、薬剤師が医師と協力して薬物治療のゴールを目指すための土台となる情報ですので、質と量を確保することが求められます。薬剤師が疑義の解決に必要な情報を提供できるか否かにより、得られる結果に大きな差が生じます。

4. Assessment:評価、判断

Assessmentは、薬剤師が疑義照会を行うための根拠を確立する作業と位置づけることができます。問題に関連する情報(S、O)を利用して、解決すべきターゲットの絞込み、医師に提供する情報の選択、薬剤師の意見や要望などについて評価を行います。

問題解決に関連する情報ごとに複数の評価が発生しますが、それらを総合してQOL向上という目標に向うようにコントロールすることが必要です。

5. Plan:計画の作成と実行

上記の過程を元に、医師に対する質問、情報提供、確認、協議などの方針を決定します。疑義照会の過程で、新たな情報が得られ問題が見出された場合には、SOAPのプロセスを循環的に繰り返します。

事例を元に考えてみよう

SOAP的な思考を疑義照会に利用した事例をご紹介します。疑義照会の方向性は、SOAPなどの方法論だけではなく、薬剤師の目的意識や能力の違いにより大きな差が生じますので、同じ事例からX薬剤師、Y薬剤師による2つの疑義照会の例を考えてみたいと思います。

1. 事例の背景

(1) 患者情報
氏名:Aさん
年齢:70歳
性別:男性
既往症:パーキンソン病
アレルギー歴:医薬品はなし、ダニ+
副作用歴:なし

(2) 薬歴情報

B医院、C医師より処方
【処方内容】
ドロキシドパ 300mg
メシル酸ブロモクリプチン 7.5mg
センノサイド錠 4T
トリヘキシフェニジル 3T
【モニタリング内容】
振戦は以前より徐々に悪化しており、ブロモクリプチンの量を増やすと説明を受けている。

数日後Aさんは、下記の処方せんを持って来局しました。

【処方内容】
メトクロプラミド 6T 毎食前

処方鑑査の段階で、メトクロプラミドには錐体外路に影響を及ぼす可能性があり、Aさんのパーキンソン症状を悪化させるかもしれないという問題点が見出されました。

ここまでの背景は、X薬剤師、Y薬剤師とも共通しています


2. X薬剤師の疑義照会事例

問題を見出したX薬剤師は、すぐにC医師に電話で疑義照会します。

X薬剤師:水野薬局の薬剤師Xといいます。Aさんの処方について確認させていただきたいことがあるのですが。
C医師 :なんでしょう?
X薬剤師:メトクロプラミドを処方いただいていますが、添付文書には錐体外路症状の報告があります。このまま調剤してよろしいのでしょうか。
C医師 :Aさんは吐き気がひどくて食事ができない状態です。パーキンソンの薬も減量できる状態ではないので、そのまま調剤をしてください。メトクロプラミドの影響については次の診察で確認しましょう。
X薬剤師:ありがとうございました。

3. Y薬剤師の疑義照会事例

問題を見出したY薬剤師は、情報収集のためにAさんにインタビューします。

Y薬剤師:こんにちは、薬剤師のYです。今日は、おなかの調子を整える薬が処方されていますがどうされました?
Aさん :3、4日前から吐き気がひどくて、ほとんど食事ができなくなりました。先生は、薬を増やしたことが原因かもといっていました。パーキンソンの薬は減らせないので、食事ができるように吐き気止めを出すっていっていましたが?
Y薬剤師:そうですか、食事ができないのでは困りますね。今までに吐き気止めをおのみになった経験はありますか?
Aさん :いや、はじめてですよ。
Y薬剤師:わかりました。念のため吐き気止めについてC先生に確認したいことがありますので少しお時間をいただけますか?

Y薬剤師は、ここでC医師に連絡をします
Y薬剤師:水野薬局の薬剤師Yといいます。Aさんの処方について確認させていただきたいことがあるのですが。
C医師 :なんでしょう?
Y薬剤師:吐き気止めとしてメトクロプラミドを処方していただいておりますが、錐体外路症状を起こしやすいとの報告があります。類似薬効を持つドンペリドンですと、メトクロプラミドと比較して脳への移行性やD2レセプター親和性が少なく、薬剤性のパーキンソニズムを起こしにくいというデータがありますが。
C医師 :ドンペリドンも使ったことがありますが、そんなにちがうのですか?
Y薬剤師:添付文書上の記載事項はほとんど変わりませんが、手元の資料では薬剤性のパーキンソニズムのリスクにはかなりの差があるようです。よろしければ資料をファクシミリでお送りしますが。
C医師 :ええ、資料はFAXしてください。Aさんの処方については、ドンペリドンに処方を変更してください。1日量はどのぐらいでしょう?
Y薬剤師:一般的には1日15mg〜30mgが常用量です。パーキンソンの患者さんには少量からはじめることが望ましいと思うのですが、Aさんの場合、吐き気が相当ひどいようですね。
C医師 :それでは、1日10mgを屯用にしましょう。1日2回を上限として、吐き気がないときは飲まないように指導してください。10日後に診察をしますので、20回分差し上げてください。
Y薬剤師:了解いたしました。ドンペリドン10mgを屯用20回分で調剤させていただきます。どうもありがとうございました。

SOAPに記録すると

問題を見出してから、疑義照会に至るまでの薬剤師の思考プロセスをSOAPでまとめてみましょう。表1がX薬剤師、表2がY薬剤師です。

1. 両事例の比較

同一の事例に対し、X、Y薬剤師の疑義照会は異なるものとなりました。このような差が生じた原因は、主にProblemの設定と情報量の差によって起こるものと考えられます。両者にどのような違いがあるのか整理をしてみたいと思います。

2. Problemの設定

両薬剤師は、パーキンソン病患者へのメトクロプラミド投与は症状悪化のリスクがあるという問題に気づいています。

X薬剤師は、疾患と医薬品情報の間に予測されるリスクを、直接的にProblemとして設定しています。調剤上の疑義を見出したことは立派ですが、AさんのQOLという視点が欠けています。おそらく、患者がAさんでなくても同じProblemが設定されるでしょう。

Y薬剤師の場合、疾患と医薬品情報の間に予測されるリスクを、Aさん個人の問題として捉えることにより、QOL向上という目標を踏まえたProblemを設定しています。

3. 情報量の差

(1) Subjective

X薬剤師の場合、Problemの設定にAさん個人に関するファクターが欠けていますので、患者インタビューを必要としていません。Subjectiveに該当する情報は空欄のままで、評価に利用することはできません。

Y薬剤師の場合、インタビューでAさんの吐き気の状態をSubjectiveとして得たことにより、QOLの向上には吐き気の改善が必要であるというAssessmentに結びついています。

(2) Objective

X薬剤師は、メトクロプラミドの添付文書情報から得られる医薬品情報を唯一のObjectiveとして利用しています。添付文書の重要な基本的注意には「錐体外路症状の副作用があらわれることがあるので有効性と安全性を十分配慮」としかありませんので、X薬剤師が医師に対する情報提供も、医師に判断を委ねた単なる確認作業になっています。

Y薬剤師は、添付文書の他に薬剤性パーキンソニズムにフォーカスした評価情報(または事前に持っていた知識)をObjectiveとして利用しています。添付文書は製品情報であり、薬物治療の評価に利用することには限界があることも理解していたのでしょう。ドンペリドンの添付文書にはメトクロプラミドとまったく同じ注意事項が記載されています。もし、Y薬剤師が添付文書しか利用していなかったら、より安全な薬剤を推薦することはできなかったでしょう。

おわりに

SOAPは、情報という根拠に基づいて効率的に結果を導き出す思考プロセスですので、疑義照会における薬物治療のレベルやコミュニケーションの効率を上げることに役立ってくれます。しかし、SOAPはあくまで薬剤師の道具であり魔法の箱ではありません。疑義照会で望ましい結果を引き出すには、薬剤師の目的意識や薬学的な能力などの材料が必要です。ただし、SOAPは優秀な薬剤師しか使えない道具かといえばそうではありません。経験の少ない薬剤師にこそ、積極的に利用していただきたいのです。日常の業務で、論理的な思考プロセスを繰り返すことにより、On the job trainingで薬剤師としての感性や能力を磨くことができると思います。

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