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株式会社 じほう
調剤と情報
別刷
平成14年6月
Vol.8 No.6
P85〜P90

SOAP的情報整理術?(3)
服薬指導業務とSOAP的情報整理

水野薬局 安田 能暢
同    安部 好弘

はじめに

地域薬局における服薬指導は、有効性や安全性の確認、情報提供、モニタリング、コンサルティング、薬物治療のインフォームドコンセントなどといった、多様な役割を持っています。当薬局では新入局員からベテランまで、全ての薬剤師が服薬指導の窓口を担当していますが、薬剤師歴4年の筆者の目から見ると、その優劣によって得られる結果(Outcome)に大きな差が生じていると映ります。

経験や給料の差、といってしまえばそれまでですが、よく観察してみると上手下手にはちゃんとした理由があるようです。本稿では、服薬指導業務に求められる薬剤師の思考プロセスや情報の取り扱い方について考察したいと思います。

ベテランと新人を比較する

まず、患者の要求に的確に応え信頼を得ているベテラン薬剤師と、新人の服薬指導にどのような差があるのか、サンプル事例を利用して比較をしてみましょう。両者の差に、服薬指導の質を高めるためのヒントが隠されているような気がします。

(1) 患者に関する情報

I 薬歴から得られる基本的な患者情報
氏名:Aさん
年齢:65歳
性別:女性
アレルギー歴:なし
現住歴:うっ血性心不全
副作用歴:なし

II お薬手帳から得られた情報

ジゴキシン 0.25mg/日
フロセミド 20mg/日
スピロノラクトン 25mg/日
1日1回朝食後 30日分 (循環器内科Y医院)

III 直近の薬歴記載事項

【整形外科X医院の処方】
ロキソプロフェンナトリウム(60)3T
デプレノン(150) 3C

1日3回毎食後 10日分

S:早朝3kmの散歩をしているが、数日前から右膝に強い痛みを感じる。
ボケないように毎日運動を心がけている。
O:X医師による診断は急性の関節炎。
しばらく散歩は休むようにいわれている。
A:早朝3kmの散歩は、心臓負担と関節炎に悪影響がある。
P:寒い時期は心臓、膝の両面からリスクが高いので、早朝散歩は控えましょう。
ロキソプロフェンは胃障害を避けるため必ず食後に服用しましょう。

(2) 事例

X医院に受診した7日後、AさんがY医院の処方せんを持って来局しました。
【今回の処方】
ジゴキシン 0.25mg
スピロノラクトン 25mg
1日1回朝食後
フロセミド 60mg
1日2回朝40mg、昼20mg 10日分

1. 新人薬剤師Aの指導

はじめに、上記の状況において新人薬剤師Aの服薬指導事例を仮定してみましょう。
薬剤師A:こんにちは、薬剤師のAです。Y医院の薬をお渡しするのははじめてですが、薬の手帳をみると量が増えましたね。
患  者:ええ、少しむくみがでたもので。
薬剤師A:利尿剤はむくみを取る効果がありますので、ちゃんとのみましょうね。 のみ方が少し変則的だから気をつけてください。色が濃いほうが40mgですから朝に、今までのんでいた薄い色の20mgは昼にのんでください。
患  者:わかりました。
薬剤師A:ところで膝の痛みはよくなりましたか?
患  者:ずいぶんよくなった気がします。
薬剤師A:それはよかったですね。胃のむかつきなどありませんでしたか?
患  者:特に気になりませんでした。
薬剤師A:朝のお散歩は控えていますか?
患  者:ええ、X先生に散歩してもよいといわれるまでお休みします。
薬剤師A:そうですね。お大事に

2. ベテラン薬剤師Bの指導

次に、ベテラン薬剤師Bに見られる指導事例について仮定してみましょう。

薬剤師B:こんにちは、薬剤師のBです。Y医院の薬をお渡しするのははじめてですが、利尿剤が増えていますがどうされました。
患  者:むくみがでているので、少し薬を増やしていただきました。
薬剤師B:むくみはいつごろから出始めたのですか?
患  者:4日前くらいかなぁ? 膝を診てもらってからしばらくしてだと思います。
薬剤師B:痛み止めは、どのように飲んでおられました?
患  者:飲むと痛みが楽になるようなので、毎日3回飲んでいました。
薬剤師B:Y先生には整形外科のお薬を飲んでいることをお伝えしていますか?
患  者:特に伝えてないけど。心臓とひざは関係ないでしょ?
薬剤師B:痛み止めのロキソプロフェンというお薬は、安全でよいお薬なのですけれど、むくみがある時には腎臓への負担を考えて使う必要があるのですよ。
患  者:えっ、痛み止めの副作用でむくんだの? 心臓のほうが大事だから痛み止めをやめたほうがいいの?
薬剤師B:ロキソプロフェンが原因でむくみが起きたかどうかは、今の段階でははっきりとはいえませんが、痛み止めを続けるかどうか、慎重に考える必要があります。ところで、膝の痛みはどうですか?
患  者:痛み始めた頃に比べて、ずいぶんよくなりました。長く歩きさえしなければ、もう痛くありません。
薬剤師B:そうですか、それではむくみの改善を優先することにしましょうね。Y先生に鎮痛剤についての影響を連絡して、今日の処方がこのままでよいか確認をしたいのですが。
患  者:はい、ぜひお願いします。
薬剤師B:Y先生に確認したところ、むくみがとれるまでは利尿剤は処方どおり60mg飲んでくださいとのことでした。シップを追加するので、飲み薬はやめて、しばらく様子をみてくださいとのことでした。

SOAPの各プロセスを比較する

A、Bの指導事例にどのような違いを見出していただけたでしょうか? SOAPのプロセスにそって、両者が行った服薬指導の差について考えてみたいと思います。

1. 問題(Problem)の抽出

服薬指導におけるSOAPのプロセスは、患者が抱えている薬物治療上の「問題」を中心にしてストーリーが展開します。

新人薬剤師Aは「利尿剤のコンプライアンス」を問題として抽出しました。一方、ベテラン薬剤師Bは「ロキソプロフェンとむくみ悪化の因果関係」を予見し、能動的な情報収集を行うことで問題として明確化をしています。

AとBの抽出した問題に差が生じた要因について考えてみましょう。

Aの事例では、副作用モニタリングやコンプライアンスに配慮するなど、一定レベルの調剤業務を行おうという意識が見られるものの、「患者のQOLの向上」を考えるまでに至っていないようです。

一方、Bの事例では、患者のQOL向上を明確な目的として、薬剤師の切り口から薬物治療上の問題を能動的に抽出しようとしています。

薬剤師としての経験や実力の差はさておき、両者の間にある根本的な意識の違いが、問題抽出のレベルを決定づける大きな要因になっているような気がします。

2. 情報(S、O)

(1) コミュニケーションスキルの違い

服薬指導では、薬剤師と患者の会話を通してさまざまな情報のやりとりが行われます。情報の質と量を確保するには、薬剤師のコミュニケーションスキルが重要な要素となります。まず、薬剤師AとBのコミュニケーションについて比較してみましょう。

新人薬剤師Aは、一方的な質問をすることで情報を収集しています。また、全ての質問が、YESかNOで答えを求める、いわゆる「閉じられた質問」の形式のため、患者に話をする機会を与えていません。一見、効率的なモニタリングや情報提供をしているようにもみえますが、コミュニケーションスキルが未熟なため、断片的な情報しか得られていません。

ベテラン薬剤師Bは、ところどころに「・・どうされましたか?」といった、「開かれた質問」の形式を取り入れることで「あなたの話しを聞きますよ」という意思表示をしています。患者に話す機会を与えていることにより、患者の置かれている状況や要望など、問題解決に欠くことのできない情報を得ることができています。また、患者の心理や理解力に応じ、用語や説明方法に配慮することも薬剤師のコミュニケーションスキルのポイントとなります。

(2) 情報量(S、O)の差

今回の事例では、薬歴や処方せんから得られる情報量には差がありません。新人薬剤師Aとベテラン薬剤師Bの情報量に格差があるとすれば、それぞれの薬剤師が持っている薬学的、臨床的な知識量の違いということになります。例えば、ベテラン薬剤師Bは、問題抽出の段階でロキソプロフェンの有害作用に関する薬学的知識、浮腫やうっ血性心不全に関する臨床的知識などを客観的情報(O)として利用しています。さらに、その解決に向けたプロセスが進むにつれ、AとBの情報格差はしだいに大きくなっていきます(表1)。

3. アセスメント(A)

アセスメントは、抽出した問題に対し、解決のためのプランを実行する根拠となるものです。薬剤師には、患者や医師に対し十分な説明ができる科学的かつ論理的な裏づけが求められます。事例では、抽出した問題の内容、収集した情報がAとBでは異なりますので、アセスメントの内容やレベルに差が生じるのは当然のことといえます。

新人薬剤師Aは、手に入れた個別の情報に対して断片的なアセスメントを行っているようです。一方、ベテラン薬剤師Bは、収集した情報と臨床的な知識を関連づけ、論理的にアセスメントを行っているようです(表2)。

4. プラン(P)

A、B両薬剤師は、自ら導いたアセスメントに基づいて表3のようなプランを実行しています。


以上のように、両薬剤師のプランはだいぶ違うものになりました。提供したプランが妥当なものであったかどうかは、患者が次に来局(または連絡)するまではわかりません。今回のSOAPプロセスは薬歴に記録し、責任を持ってモニタリングをすることが必要です。

この一連のサイクルを継続することにより、薬剤師の財産である情報の質は大きく向上します。患者のQOL向上を志向した薬剤師サービスを目指す際の土台となってくれるはずです。

おわりに

新人薬剤師とベテラン薬剤師Bの違いについて、どのように感じていただけたでしょうか? 筆者の目から薬剤師Bを見ると、特別な苦労もせず、ごく自然にSOAPの思考プロセスを利用しているように見えます。新人の薬剤師たちも、先輩たちの服薬指導を模倣しながら少しでも近づこうと努力をしているようです。自分たちができないことを模倣して覚えることは決して悪いことではありません。しかし、本稿をまとめているうちに、表面的な真似をしながら経験を積むだけでは、薬剤師Bのようにはなれないことに気づきました。

模倣をするべきポイントは、「患者のQOL向上に対する目的意識」、「コミュニケーションスキル」、「知識の蓄積」、「責任」など、薬剤師の根っこにあたる、見えない部分にあるようです。もちろん、一度に全てのものを習得できるわけではありませんから、SOAPなどの論理的な方法論を利用しながら、地道に根っこの部分を成長させる必要があります。

本稿をお読みいただいた新人薬剤師の皆さんには、上記のキーワードを意識しながらSOAPの思考プロセスを試してみることをお勧めします。

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