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株式会社 じほう
調剤と情報
別刷
平成12年5月
Vol.6 No.5
P63〜P67

αプラスアルファの薬剤師業務?G―完
DISPENSING
調剤室を見直してみよう
水野薬局 安部 好弘

はじめに

地域薬局の調剤室は約1世紀にもわたり、あまり注目もされず肩身の狭い思いをしてきました。肝心の処方せんが地域薬局に来なかったのですから、薬局の基幹部である調剤室が冷遇されてきたのも仕方がないことかもしれません。処方せんが利用されはじめて調剤室が活躍する時代になっても、薬剤師の情熱は薬歴や情報提供というスターに注がれ、調剤室が話題に上ることは少なかったように思えます。病院の外来調剤と同じレベルを実現することが目標だった時代に模倣した調剤室のイメージのまま、地域薬局独自の進歩が止まってしまっているように思えてなりません。なるほどと感心するような外装や待合室を持った薬局でも、調剤室だけは薬局の個性を感じられないことが少なくありません。

さて、今回の主題は調剤室の一工夫です。各論的には薬局ごとに事情が違いますので、本稿が全く役に立たないかもしれません。できれば、今まで忘れがちであった調剤室のことを振り返る一助としていただければと思います。

調剤室はステータスシンボル

1. 薬屋の門構え

昭和30年代、故武見太郎先生(当時の日本医師会会長)は、医薬分業論争の際に「雑貨の奥から調剤した薬が出てくるようでは、患者や医者は薬局の調剤を信頼しない。信頼されなければ医薬分業は制度として進まない」と喝破されたそうです。昭和37年、水野薬局が調剤部門を独立させた(調剤)薬局を創ったのも、「街の薬局でも信頼できる調剤を受けられます」ということを、地域社会に理解してもらうための試みだったようです。

薬局の設備構造基準には、縦1m、横1.3m以上の窓をつけるという規定があります。どんなところで調剤をしているのか消費者に見せなさいという、情報公開の考えがもともと取り入れられているわけです。さて、処方せん受け取り率が3割を越えた現在、肝心要の調剤室は消費者から「街の薬局で調剤してもらいたい」とイメージされるような状態になっているのでしょうか? 調剤室は消費者から毎日見られているのです。40年前に出された「薬屋の門構え」という宿題をやり残してしまっているような気がしてなりません。

2. 地域薬局のお手本

10年ほど前から、何度か欧州の薬局を見学する機会がありました。訪問した薬局の規模や立地はさまざまですが、どこに行っても薬局ごとに個性が感じられ、みごとに磨きあげられていることには目を見張るものがありました(写真1、2)。調剤権をめぐる競争に勝ち抜いてきた薬局の重みと機能美がうまく融合し、「これなら消費者から信頼され選択されるに違いない」とほとほと感心させられました。できることなら欧州の調剤室をそのままコピーしたくなるほどです。もちろん、歴史、文化、制度、建物事情など全てが異なるのですから、そのまま日本の調剤室に持ち込んだところでただの猿まねになってしまいます。模倣したまま進歩しないという轍を踏むわけにはいきません。高い評価を得ている欧州の薬局の調剤室に対する概念を見据えて、独自の発展を創造することが必要なようです。

3. なぜ魅力のある調剤室ができるのか?

欧州の薬局もほとんどが個人所有であることはわが国と変わりません。なぜ、あれほど魅力的な調剤室がつくれるのでしょうか? 個人の趣味や民族の差と片づけるわけにはいかないようです。どうやら、医薬分業制度に対するとらえ方が根本的に違っている(表1)ことが大きな原因になっているように思えます。

欧州では地域薬局が一元的に薬剤の供給を担当していますので、薬局のクオリティがコミュニティの薬剤供給体制に直接的に関与することになります。調剤室は薬局の設備ですが、いわばコミュニティの調剤室でもあるわけです。その調剤室を、清潔にかつ効率よく管理することが地域薬剤師の役割であり誇りなのでしょう。わが国の処方せん受け取り率もこのまま順調に伸びるかもしれません。その時に、薬剤師がプロフェッションとして、地域の薬を適切に管理していることを消費者に主張することが、医薬分業を制度として支持してもらう上で必要な気がします。もちろん、今すぐ大きな投資をして欧州のような調剤室にしましょうというわけではありません。調剤室を公開することの意味を今までと違う観点でとらえれば、管理を見直すだけでも大きな効果が期待できるような気がします。

調剤室を新築、改造する時の工夫

1. 調剤室のイメージづくり

調剤室で最も大切な要素は、その機能であることはいうまでもありません。しかし、薬局を新築したり改装する場合には、貴重な労力とコストを費やすわけですから、少しでも消費者に認められるようなイメージの良い調剤室にしたいものです。おそらく、機能を追及した良い調剤室であれば機能美が感じられるでしょう。それで十分かもしれません。しかし、はたから見ると、グレーやアイボリーのスチール製什器などが、せっかくの雰囲気を台なしにしていることもあるようです。また、薬の箱を床や棚上に積み上げてしまい、薬局の管理能力に対するイメージにとって大きな損失となっていることもあるようです。見た目もそれなりに重要といえるでしょう。地域薬局の調剤室らしいイメージをつくるために必要な要素を大まかに整理してみましょう。

I 機能(美)

レイアウトなどが適切で、薬剤師がよどみなく調剤業務をしていることは、機能的な薬局をイメージさせます。また、多品目小包装の在庫が整理され収納されていること、調剤器具などが整然と並べられていることも、重要なポイントといえそうです。さらに、高い衛生環境が感じられることも、患者の安心感につながるでしょう。

II メッセージ性

薬局の個性(主張)が感じられる統一感があること(いわゆるCI)は、薬局のイメージづくりに欠かせません。さらに、プロフェッションとしての専門性が感じられること、地域薬局の身近さや温かさ(地域性)が感じられること、清潔感が感じられることなども、薬局から地域へのメッセージという観点から重要ではないでしょうか。

2. システムキッチンの流用

調剤室のイメージを良くするといっても、べらぼうなコストをかけるわけにもいきません。空間もコストが限られている中で、機能とイメージを実現する必要があります。

調剤室のレイアウトの一工夫として、什器にシステムキッチンを流用すると構想の幅が広がり効果的です。「台所と調剤室を一緒にするとはけしからん!」とお叱りをうけるかもしれません。しかし、システムキッチンは、コスト、収納力、設計自由度、見た目、耐久性、メインテナンス、選択肢の多さなどの点で調剤室の什器として非常に優れているようです。調剤室=調剤専用什器、という固定観念さえ取り払えばすこぶる便利に使うことができるはずです。

I コストと機能のバランス

システムキッチンは、国内外のさまざまなメーカーから発売され、価格帯もまちまちです。調剤室に取り入れるには、本体(躯体)、天(上)板、化粧(表)板の組み合わせで一つのシステムをつくりあげます。限られた予算の中で必要な機能を得るには、それぞれの役割を考えて選択することが必要になります(表2)。

働きやすい調剤室

1. 調剤室の効率を考える

地域薬局の仕事(調剤)量は確実に増えてきています。今まで十分だった調剤室が、手狭になったと感じている方も多いと思います。しかし、いたずらに広ければ調剤の効率が良くなるかといえばそうでもありません。例えば、手狭に感じる調剤室の時には3歩で薬を集められたものが、改装により10歩になってしまうのであれば、調剤の効率は落ちることになってしまいます。つまり、潜水艦や航空機のコックピットのように、最小限のスペースで必要な作業がこなせるレイアウトされた調剤室こそ効率が良く働きやすい調剤室なのです。

もちろん、薬剤師の人数、在庫量、仕事量が完全にオーバーフローするようであれば規模を拡大するための改装も必要になるでしょう。このような場合、調剤効率は「レイアウトによる効率」と「薬剤師の人数(処方せんの枚数)」のかけ算になるわけですから、規模の拡大を行う時ほどレイアウトの優劣はより大きく影響することになります。

2. 何を中心にレイアウトするか

調剤室には、調剤台、分包機、監査台、冷蔵庫、滅菌機、コンピュータなどの什器、調剤機器を入れる必要があります。限られた空間に多くのものを押し込めなければいけないのですから、どうしても置き場所を優先的に考えがちになります。こうなると、なかなか使い勝手の良いレイアウトにはなってくれません。

調剤室の図面を前にしたら、最初に調剤業務の流れと薬剤師の動線を考えてイメージを作ってしまうことがポイントです。従来の業務内容や、将来の予測を頭に浮かべながらシミュレーションを行い、考えられる限りの素案をつくります。素案の絞りこみを行って具体案ができあがってから什器などの配置を考えた方が、先入観や制約がなく良いレイアウト案ができるようです。

3. 流れと動線に合ったレイアウト

調剤業務の流れと薬剤師の動線が決まったら、1/50程度に縮尺した図面に流れを書き込み、次に什器などを同縮尺したパズルを利用してレイアウトを考えます。流れと動線が優先しますので、そう簡単にパズルは図面の中にきれいに収まってくれません。広さに余裕のない都会の薬局でしたら、パズルが重なって途方に暮れるかもしれません。このような時には、平図画を立体的に見たてて空間を利用することを考えます。

I 空間を利用する

地域薬局では多品目小包装が主流ですので、これらを効率的に最小限の床面積で収納することが必要です。前述したシステムキッチンなどの特性を利用して、壁、コーナー、頭上などの空間を活かした立体的な収納場所や作業スペースの確保を考えます。もちろん、家具屋さんと一緒に図面起こしからオーダーメイドすれば、よりオリジナリティのあるレイアウトも可能でしょう。

II 図面にない平面を見つける

作業スペースが不足している場合などは、ちょっとした工夫により平面図にはない新たな作業平面を創り出すことも可能です。例えば、収納用の棚を作業台の上に壁付けして底に照明をつければ、手元の作業スペースを創り出すことができます。また、調剤台に軟膏台をビルトインするなどの工夫でも、省スペースと作業効率が両立します(写真3、4)。

III レイアウトを変更するための裏技

一般的に、調剤台、鑑査台は、複数の棚や引き出しを一枚の天板でつないだ状態で床置きします。動線が確定し、将来も動かす予定がないのであれば、コストと見栄えの良いこの方法でまったく問題ありません。ただし、後々レイアウトを修正したり、大きい機器を導入する予定がある場合には、長い作業台などはどうしても大きな障害になります。レイアウトを簡単に変更する一工夫として、調理台を一台ずつセパレートにしておくと、移動、方向転換、組み合わせなどを自在に変えることができ、レイアウトの自由度がすこぶる向上します(写真5)。

おわりに

レイアウトができたら、後はうまく運用、管理するだけです。調剤業務の流れと薬剤師の動線を基にしていますので、ちょっとした工夫で使いやすくなるはずです。例えば、繁用医薬品、要注意医薬品、複数含量医薬品などをうまく配置すると、調剤の効率が上がりますし、ケアレスミスを防ぐ効果も期待できます。また、調剤に一定の手順や流れを作ることができれば、薬剤師がお尻をぶつけ合いながら調剤することも少なくなり、結果的には待ち時間の短縮にもつながります。このような日常的な工夫の積み重ねが、薬局の機能美を生み出すことにつながります。きっと消費者に信頼され選ばれるようなオリジナリティにあふれた調剤室を創ることができると思います。

今まで、いくつかの薬局でレイアウト設計に関わってきました。本稿を書き進むうちに、あらためて調剤室を見直すと、ここもあそこもダメになっている、と反省点ばかりが頭に浮かびます。忙しさにかまけ、ちょっと目を離して手をかけないでいると、空き家と同じで調剤室はすぐにみすぼらしくなってしまうようです。有言実行、楽しみながらレイアウトを見直すことにします。

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