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株式会社 薬事時報社
調剤と情報
別刷
Vol.4 No.5
P39〜P45

薬剤情報提供と服薬情報提供の意義と実際〔6〕
開局における情報提供の準備活動
水野薬局 安部好弘

1. はじめに

昨年、都市銀行や金融機関があいついで破綻した。金融の自由化というビックバンにより、今まで予想すらできないようなことが現実に起きている。改革により、従来の常識がまったく通用しなくなったことは周知の事実であろう。

薬剤師の世界に目を向けてみよう。昨年、薬剤師法25条の2が施行された。社会(=消費者)は、薬剤師が調剤権を独占する条件として、個々の患者に応じた高いレベルの情報サービスを「法」によって明確に要求したのである。さらに、情報サービスに専門性を必要としない薬剤供給については、規制を緩和して他業種との競争をするよう求めている。今まさに、情報の取り扱いを通じて薬剤師職能の専門性が問われているのである。たとえば、単に添付文書を記憶して、その一部を抜き出して渡す程度の情報サービスでは、社会的な要望に応えられないことは明らかである。有能な薬剤師だからこそできる情報サービスを提供しなければ、「薬剤師不要」と評価される時代がすぐそこまで来ているといえるだろう。すでに薬剤師の情報活動におけるビックバンは始まっているのである。

本稿では、社会(消費者)が求めている情報提供を行うために必要な骨格(準備)について考えてみたい。水野薬局における試行錯誤のいくつかを紹介するが、これは方法論や情報の取り捨てのモデルではなく、あくまで骨格について考える上での材料としてみていただきたい。

2. 水野薬局における情報提供の柱

「医薬品の適正使用」に関して、薬剤師が提供する情報にはさまざまなものがある。どのような情報提供が、患者や社会の要求に応えることになるのか、その性質に応じた整理をする必要がありそうである。

当薬局の場合、次に示す情報提供の二本柱をたて、それぞれの観点から提供する情報について検討を行っている。すでに実施しているもの、検討中のものも含めて考察してみたい。

1) 消費者の基本的な権利を守る情報提供

この柱における目標は、調剤した薬と調剤行為に関する責任の所在を明確にすることにある。医療という限定した視点よりも、薬の消費者に対するディスクロージャーの意味あいが強い。下記に示した情報群?Tは、すべての患者に対し提供できる性質をもつものである。患者がこれらの情報を持つことは、医療に対する意識を「おまかせ」から「自己責任」に改革をするうえで重要なポイントである。薬剤師が、情報提供を通じて消費者の権利を尊重することは、われわれが消費者の味方であることをアピールすることにつながるだろう。ここで求められる要素は、コンスタントに必要な情報を提供することである。

情報群I

● 薬剤師法25条の記載事項
● 薬品名
● 製造者(製薬メーカー)名※
● 識別コード
● 保存条件
● 使用期限(廃棄時期)※
● 薬剤費、技術料の明細
● 処方発行機関および医師名
※:当薬局では未実施(検討中)

2) 薬剤師の評価に基づく情報提供(交換)

この柱における目標は、患者のQOLの向上である。下記に示した情報群?Uは、薬剤師から患者に一方的な提供ができる性質のものではない。患者とのコミュニケーションを通して、医師の処方意図や患者の状況を把握してこそ適切な情報提供ができるものである。その意味では、「提供」ではなく「情報交換」という表現の方が適切かもしれない。情報交換を患者のQOLの向上に結びつけるには、薬剤師の目的意識、臨床的知識、コミュニケーションスキル、医療記録の充実、などの水準を上げることが必要である。参考までに、当薬局における薬剤交付窓口での基本的ステップの一例を紹介する。

情報群II

● 効能効果、服薬目的
● 患者にモニタリングしてもらう副作用などの前駆症状
● 服用中の注意事項(コンプライアンス、相互作用防止策)
● 患者の質問(疑問、不安)に対する回答
● 患者(消費者)教育

3. 情報提供の結果を重視する

仮に、上記の情報群?T?Uを適切に提供できたとしよう。ややもすると、ここまでのプロセスに満足して義務を果たしたと勘違いしがちである。しかし、本当に重要なことは情報提供という「行為」ではなく、それにより得られる「結果」である。結果重視の観点から、情報活動がQOLの向上という結果に結びついているか、客観的に自己モニタリングをすることが必要である。目標とする結果としては、次の事項が考えられるだろう。

● 治療(予防)効果の向上
● 重複投与、相互作用、誤服用の防止
● 副作用(望ましくない作用)の予防および早期発見
● 患者の(薬物治療における)納得と同意
● 患者の知識と意識の向上
● 患者の(合理的な)要望の実現
● 医療費の節約

4. 提供する情報の質

薬剤師の情報活動がより良い結果をうみだすには、提供する情報の質を高めることが必要である。本来ならば薬学教育を含む話題であるが、ここでは当薬局の例を利用し、日常的な業務の取り組みとして考えてみる。

1) 情報源の選択

薬剤師が使用する情報源の質は、薬物治療の評価や患者に提供する情報などの質に直結する。当薬局では、つぎの条件を持つものを利用することを原則としている。残念ながら、この条件にあった邦文の資料はそれほど多くないため、情報を得るためにはそれなりの投資と労力が必要となる。しかし逆説的にいえば、適切な情報源がそろえてあり、それを利用する薬剤師がいるからこそ、調剤をする特定の場所や職業人として認められるのだろう。

● 医療従事者によって評価された医療出版物
● 非営利的、中立的であること
● 臨床的な情報(書籍)
注)添付文書は、上記の要素を充たす情報ではない。

2)薬剤師の研修

提供する情報の質を高めるには、薬剤師の臨床的な能力が必要である。その能力を向上させるには、疾患や治療を含んだ実務的な研修が必要である。当薬局ではSOAPを利用した症例のプレゼンテーション、FIPや地区研修会で行われているワークショップ形式で研修を行っている。これらの方法は、情報活動を結果に結びつけるトレーニングとして次の点で効果的と考えている。

● 情報活動を行う目的(結果重視)の理解
● 問題解決の方法論の学習
● コミュニケーションスキルの熟練と重要性の理解
● 臨床(模擬的な)経験、知識の向上

5. 開局に求められる準備

現在の処方せんの発行率は3割に達していない。開局薬剤師は、一人の患者に対し比較的多くの時間を利用できる状況にある。しかし、発行率があがり、さらに充実した情報をコンスタントに提供することが求められたときどうなるのであろう。ただ闇雲に「がんばる」というのでは通用しないことは明らかである。従来どおりの業務形態のまま、新たな情報活動に取り組むことには限界があろう。ここでは、情報活動に取り組むうえで、当薬局が行ってきた準備の一例を紹介する。また、薬剤師の責任で行うべき環境整備について考えてみたい。

1) 水野薬局における準備の一例

薬剤師が情報活動にシフトするには、従来の業務を効率化してその時間をつくりだす必要がある。当薬局の場合、薬剤師の半数を情報活動(コミュニケーション、情報の作成、管理、提供)に専任させるために、薬剤師を薬局業務の非専門的な分野から開放する試みを行った。その効率化の一部をピックアップして紹介する。

I 計数業務のアシスタント(非薬剤師)への移行

錠剤や分包品などを数え集める作業は、すべてアシスタントに移行した。この際、処方せんを読んで数え集めることは、調剤に当たる可能性がある。そこで、次のようなプロセスにより、計数業務を完全な事務仕事にしてアシスタントへの移行を実施した。

● 薬剤師が処方監査をして、コンピュータに処方内容を入力
● アシスタントへの指示書(チェックリスト*資料1)を出力
● アシスタントは指示書に従い計数業務
● 薬剤師が処方せん、チェックリストをもとに薬剤監査

II 書記、記録のコンピュータシステム移行

当薬局では、コンピュータシステムを利用して患者に提供する文書(*資料2)を作成している。この業務自体は、薬剤師の評価や判断がともなう高い専門性を必要とするものである。しかしながら、それに伴う書記(出力)、保存、検索などの分野については、コンピュータシステムへ移行による効率化が可能であった。これにより、薬剤師は提供する内容の評価や患者とのコミュニケーションに専念することができるようになっている。

2) 情報活動の環境整備

I 調剤形態の見直しについての提言

現在、開局薬剤師1人あたり処方せん40枚の上限が設定されている。現在の日数倍の調剤では、さまざまな効率化をはかってもそれがギリギリの限界であろう。現在の調剤形態のまま情報活動を充実させれば、この限界がさらに低くなることは容易に想像がつく。逆説的に考えると、1人の薬剤師が少数の患者の薬物治療しか管理できないということである。その結果、薬剤師の所得を低いものにするか、患者に高い医療費を払ってもらうことにつながってしまう。

薬剤師が情報活動にシフトするには、現在の日数倍調剤の制度を見直す必要がある。具体的には、医薬品供給の方式を、分業先進国で実績のある既包装単位の供給方法に変え、調製や調合などの作業は必要最小限にすることが考えられる。薬剤師が情報活動とアシスタントに対する監督業務に専念すれば、適正な費用でより多くの患者に薬剤サービスを実施することができるだろう。

IIチーム医療における情報の共有

薬剤師が適切な情報提供を行うには、医師、患者との協力関係を築くことが求められる。薬剤師が積極的に提案できるものが少なからずあるはずである。
● 医師に対する提案の一例

現在、開局薬剤師の情報提供は、処方内容、薬歴、患者へのインタビューなどから、医師の処方意図を推測した上で行っている。この推測がはずれた場合、情報提供が患者を混乱させてしまい、治療の妨げとなってしまうことは容易に想像がつく。医師の処方意図を正確に知ることは、提供する情報の信頼性を向上させるための重要なポイントとなる。

薬剤師の情報提供が義務化された今、処方せんに「診断名」または「処方意図」を記載してもらうよう、医師に要望を出すことが必要であろう。

●患者に対する提言の一例

現在、「薬の手帳」「健康手帳」など、患者自身による薬歴の一元管理の提案がなされている。患者が情報管理の主体となることは、複数の診療機関、薬局を利用した場合でも継続性のあるサービスをうけられるという点で効果的である。残念ながら、限られた範囲でのトライアル的な段階であるせいか、いまだに患者の関心度や利用率は低いようである。

開局薬剤師は、より積極的に一元管理の重要性を呼びかける必要がある。同時に、患者が利用しやすく、また薬剤師の記入効率の良い、共通した管理様式(手帳、ICカードなど)を提案する必要があろう。さらに、患者に選択された薬局が、情報のバックアップ(複製保存)を受け持つための準備も必要である。患者からバックアップを依頼された薬局は、本当の意味で「かかりつけ」になるだろう。

6. 最後に

薬剤師は今、改革にともなう混乱の過渡期におかれている。いわば、ビックバンに対応するために与えられている猶予期間である。今の時点で順調な業務に、あえて波風をたてたくないと考えるのは、ごく当たり前のことである。しかし、ここでの改革いかんによって、ビックバンは薬剤師のチャンスにもピンチにも化けるのである。もし、現状維持で満足してしまえば、チャンスを掴めないことはいうまでもないだろう。

社会は、より高いレベルの情報サービスを要求している。われわれは、薬剤師の能力がなければ実現できないような、質の高い情報サービスを構築して実行しなければならない。そして、薬剤師が、患者や社会にとって有益な結果をもたらす職業人であることを証明することが必要である。ビックバンに対応する改革には、混乱やリスクをともなうかもしれない。時には、従来の考えや実績を否定したり捨て去ることも必要となろう。これは、薬剤師が消費者と社会に認められる医療人になるための産みの苦しみなのである。

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